ホルムズ海峡の機雷除去が「30日以内」という期限付きで合意文書の草案に盛り込まれた――BBCが報じたこの一報が、5月22日の原油市場をざわつかせた。世界の原油・LNG輸送量の約20%が通過するこの海峡が再開通するとなれば、影響は価格だけにとどまらない。ただし話はそう単純じゃなかった。

MOU草案の中身:60日停戦+機雷除去+制裁免除の三点セット

米国とイランが暫定合意したとされるMOU(了解覚書)の骨格は、大きく三つ。まず現行の停戦を60日延長すること。次にイランが30日以内にホルムズ海峡に敷設した機雷を除去し、米側も封鎖を解除すること。そして米国がイランへの石油販売制裁を一時免除するかたちで、イランが原油輸出を再開できるようにすること。Axiosの第一報によれば、トランプ大統領はすでにブリーフィングを受けたが即座にサインせず、「数日かけて検討する」段階にとどまっているという。

イランの半公式通信社タスニムも「最終確定も確認もされていない」と否定的なトーンで報じており、外部から見える絵と当事者の温度差が透けて見える。

「交渉担当者たちは、いくつかの言葉の問題で行ったり来たりしている。そのひとつに濃縮の問題が含まれる」――JD Vance(BBC報道より)

ここで引っかかるのが「濃縮の問題」という言葉。米イラン核交渉における最大の地雷は、イランが自国でウランを濃縮する権利を持つかどうかだ。2015年のJCPOA(核合意)でも最後まで揉めた論点で、イランはこれを「主権の象徴」と位置づけ、米側は濃縮能力そのものを制限したい。ヴァンスが「まだそこには至っていない」と述べたのはこの部分を指しているとみられる。

ホルムズが開けば何が変わるか:原油価格への即応シナリオ

ホルムズ海峡の封鎖が続いた期間、世界のエネルギー市場は代替ルートの確保コストと保険料上昇を価格に転嫁してきた。30日以内の機雷除去が現実になれば、タンカー各社の保険コストが先に下がり、その後スポット運賃、そして原油価格という順番で反応するのが過去のパターン。ただし「合意報道が出るたびに相場が動いて、破談のたびに戻る」という繰り返しに市場も学習しており、今回はサイン確認まで様子見の姿勢が多いらしい。

米イラン了解覚書(MOU)が正式署名されるかどうかで、中東の石油輸出国の増産余地も変わってくる。イランへの制裁免除が発動すれば、日量100万バレル規模の追加供給が現実味を帯びるからだ。サウジアラビアやUAEにとっても無関係ではない話になってくる。

この先どうなる

最大の関門は、ウラン濃縮をめぐるイランの「権利」をどう文書化するかだろう。「濃縮ゼロ」を求める米強硬派と、「国内濃縮の維持」を譲らないイランの間でどこに着地するか。トランプ政権が「数日で判断」と言っている以上、今週末から来週にかけて何らかの続報が出る可能性は高い。合意が固まれば30日という機雷除去の期限が即座にカウントダウンを始め、原油・LNG市場は本格的な織り込みフェーズに入る。逆に破談なら、ヴァンスの「まだそこではない」という言葉が正しかったことになる。どちらに転ぶかは、いま書いている時点でも誰も断言できない状況だ。