EU中国貿易戦争が、いよいよ「全産業巻き込み型」に変わろうとしている。電気自動車(EV)への最大45.3%の追加関税から始まった攻防は、コニャック、豚肉、鉄鋼、太陽光パネル、化学品へと連鎖し、欧州の製造業が改めて「これは価格競争じゃない」と気づき始めた局面に来ている。
中国製EVに45.3%——それでも止まらない流入の理由
欧州委員会がBYDやSAICなどの中国製EVに追加関税を課したのは2024年秋のことだった。税率は最大45.3%。これだけ積み上げれば欧州市場での競争力は削げるはず、というのが当初の読みだったらしい。
ところが実態は違った。中国メーカーは東欧や中東経由で迂回輸出を模索し、一部は欧州内での現地生産を検討し始めた。値段が安い理由が「企業努力」ではなく、中国政府による巨額の補助金——製造コストそのものを押し下げる政策支援——にあるとすれば、関税で吸収できる話じゃないわけで、欧州委員会内部でもそこへの認識が急速に強まっている。
「安価な商品が流入し続け、欧州大陸の製造業部門を脅かす中、解決策を求める動きはますます切迫したものになっている。」(The New York Times)
鉄鋼もそうだ。中国の粗鋼生産能力は欧州全体の需要の数倍に達しており、過剰在庫が叩き売り価格でヨーロッパに流入している。ドイツの鉄鋼大手ティッセンクルップが大規模リストラを発表した背景には、こうした価格圧力があった。中国製EV関税と並行して、鉄鋼のセーフガード措置も繰り返し延長されているが、根本的な解決には至っていない。
コニャックと豚肉——報復の照準が農業に向いた瞬間
中国の反撃は巧みだった。EVへの関税に対して、ターゲットに選んだのはフランスのコニャック産業とEU産豚肉・酪農品。偶然じゃない。フランスはEU内で対中強硬論に傾きやすい国で、その国の農業・食品業界を揺さぶることで、加盟国内の足並みを乱す狙いがあったとみていいだろう。
実際、ドイツの自動車メーカーは中国市場への依存度が高く、強硬な通商措置に慎重な立場を崩していない。EU27カ国が一枚岩になれないことを中国側は十分に計算に入れている。貿易戦争の「戦線」が農業・食品に広がったのは、経済的な打撃というより、政治的な楔を打ち込む動きとして読んだほうがしっくりくる。
この先どうなる
欧州委員会は現在、EVや鉄鋼に限らない「包括的な防衛的通商措置」の策定を急いでいるという。対象には化学品や太陽光パネルも含まれる見通しで、実質的にはWTO協定の枠内で許容される最大限の防衛網を敷こうという方向性らしい。
ただし、措置が広がれば広がるほど中国の報復対象も広がる。農業・食品に続いて、欧州の航空機産業やサービス業が標的になる可能性も否定できない。米中貿易戦争と異なり、EU中国貿易戦争には「27カ国のコンセンサス」という制約が常につきまとう。中国はそこを突き続けるだろうし、欧州がどこまで結束を保てるかが、この戦争の行方を決めることになりそうだ。アメリカが高関税で中国製品を弾けば弾くほど、その行き場が欧州に向かう構図も変わらない。年内に新たな関税措置が発動される可能性は、かなり高いとみていい。