キューバ燃料危機が、一隻の船の針路変更でまた一段と深刻な局面に入った。ニューヨーク・タイムズの報道によれば、キューバへの燃料補給を担うはずだったロシアのタンカーが、島に到着する直前に進路を変えたという。燃料を待ちわびていた側からすれば、港に着くと思っていた船が突然Uターンした格好だ。

ハバナで「1日20時間停電」が続く理由

キューバの電力事情は、数字で見るとその深刻さが伝わりやすい。首都ハバナでは現在、1日最大20時間を超える計画停電が常態化しているとされる。冷蔵庫が止まり、扇風機も回らない熱帯の夜が、週に何日も続く——そういう生活を市民は強いられている。

直接的な原因は燃料不足だが、その背景を少し掘り下げると、米国による石油封鎖キューバ政策の長期的な影響が見えてくる。加えてベネズエラ産原油の供給が近年じわじわ縮小しており、ロシアからの調達が実質的な頼みの綱になっていた。その綱が、今回また一本切れた形だ。

「キューバへの燃料の命綱を積んでいたとみられるロシアのタンカーが進路を変えた。米国の石油封鎖に苦しむ島にとって、痛烈な事態となった。」(The New York Times)

「痛烈な事態」という表現がじわりと刺さる。外交交渉や制裁の話として処理されがちだが、その実態は停電で食料が傷み、病院の機器が止まりかけるという話だったりする。

ロシアタンカー転針——なぜ直前で引き返したのか

転針の具体的な理由は現時点で明らかになっていない。ただ、考えられる要因はいくつかある。対ロシア制裁の強化によって、キューバ向け石油取引に関わる船舶や企業が二次制裁のリスクを負うケースが増えている。保険会社や港湾サービス会社が取引を嫌がるだけで、タンカーは動けなくなる——そういう間接的な締め付けが効いている可能性が高い。

ロシアタンカー転針が今回に限った話ではなく、こうした「土壇場での離脱」が繰り返されているとすれば、キューバ側に残された選択肢は相当に限られてくる。ベネズエラ、ロシア、イランという従来の供給ラインがいずれも細くなっている中で、代替ルートを見つけるのは容易ではない。

この先どうなる

短期的には、停電の長期化と市民生活のさらなる疲弊が続くとみられる。キューバ政府は国内の発電設備の老朽化対策を急いでいるが、部品調達にも外貨と燃料が必要で、悪循環を断ち切る入口が見当たらない状況だ。

地政学的な文脈では、米国の対キューバ政策がバイデン政権期よりも強硬路線に戻りつつある中で、ロシアがエネルギー供給を外交カードとしてどこまで使い続けるかが焦点になる。キューバ燃料危機の行方は、米ロ関係や中南米情勢の温度計でもある。次の転針が来る前に、何らかの外交的な動きがあるかどうか——それを確認できるのは、おそらく数週間以内だろう。