ジョン・ウィリアムズが珍しく「わからない」と言った。ニューヨーク連銀総裁としてFRB内でも屈指の発信力を持つ人物が、AI生産性ブームと政策金利の関係について「影響は現時点で不透明」と明言したのは、単なる慎重論じゃない。むしろ、いま世界の資本市場が直面している「答えのない問い」を、そのまま市場に突き返した格好だった。
ゴールディロックスか、過熱か——2つのシナリオが真逆に分かれる
FRBの生産性評価は、今後の金利パスを左右する。AIが生産性を持続的に底上げするなら、インフレを抑えながら経済が成長し続けるゴールディロックスシナリオが現実味を帯びる。その場合、利下げへの圧力は高まりやすい。
一方、AI関連の設備投資や人材需要が旺盛なまま続けば、需要が供給を超えてインフレが再燃するリスクも残る。その場合、金利は「高め据え置き」どころか、引き上げ方向にも振れうる。同じ「AI景気」という現象が、解釈次第でまったく逆の金融政策を正当化してしまう——これがウィリアムズ発言の核心だったらしい。
Fed's Williams Says Unclear How Productivity Boom Impacts Rates(Bloomberg, 2025年5月28日)
この見出し一本が示すように、ブルームバーグも「不透明」という言葉そのものをストレートに報じている。FRBが「データ次第」という立場を崩せないのも、こういった構造的な不確実性があるからだろう。AI金利影響という変数が、既存の経済モデルにうまく収まらないのだ。
1990年代の「ニュー・エコノミー論争」との既視感
調べてみると、似たような議論は過去にもあった。1990年代後半のIT革命期、当時のFRBも生産性向上が実需なのか幻想なのかを巡って割れていた。グリーンスパン前議長は生産性上昇を評価して利上げを遅らせ、結果としてドットコムバブルの膨張を許したという批判もある。
ウィリアムズが「不透明」を繰り返す背景には、その教訓があるとみていい。楽観シナリオに乗りすぎれば、次のバブルの呼び水になりかねない。かといって慎重すぎれば、実需の回復を政策が潰すことになる。FRB生産性の評価ミスは、どちらに転んでも後悔が残るわけで、「答えを保留する」のは実は合理的な判断でもある。
この先どうなる
焦点は、AIの生産性効果が統計データに可視化されるかどうかだろう。米国のGDP統計や全要素生産性(TFP)の数値に明確な上昇トレンドが表れれば、FRBは「ゴールディロックス」路線に軸足を移す可能性が高い。逆にインフレ指標が再び上振れすれば、「AI過熱」説が台頭し、利下げ期待は後退する。ウィリアムズは答えを出さなかったが、市場は出さざるを得ない。次の統計発表が、事実上の「踏み絵」になりそうだ。