IRGC核物質移転について、革命防衛隊系メディアが「準備はできていない」と明言した。米イラン交渉が合意間近と伝えられていたタイミングだっただけに、この否定声明が持つ重みはただの報道訂正とは違う。

ハメネイ師周辺が動いた「核放棄拒否」の意味

今回の声明が出たのは、複数の外交筋が「両国間の核合意に向けた協議が最終段階に入った」と報じていた直後だった。IRGCに近いメディアが自ら否定に動くのは珍しい。単に事実誤認を正したというより、強硬派が交渉の方向性に楔を打ち込んだと読むほうが自然じゃないか。
高濃縮ウランの国外移転は、2015年のJCPOA(イラン核合意)でも核心的な条件として課された項目だった。あのとき、イランはロシアへの濃縮ウラン移転に応じた。しかし今回、それと同等の条件を受け入れる気配がない。イラン核交渉における強硬派の存在感が、交渉テーブルの外から交渉そのものを揺さぶっている格好だ。

「IRGCに近いメディアは水曜日、米国との潜在的な合意の一環として、テヘランが核物質を国外移転する準備ができているとの報道を否定した」(Reuters, 2025年5月28日)

ロウハニ政権時代と異なり、現在のイランは最高指導者ハメネイ師の意向を色濃く反映した強硬路線を維持している。外交当局が交渉を進めようとしても、革命防衛隊と宗教指導部がその上限を決めるという構図は変わっていない。

高濃縮ウランの行方が合意の生死を分ける

高濃縮ウラン国外移転なき核合意が国際社会に通用するかといえば、まず無理だろう。IAEA(国際原子力機関)の検証体制も、核拡散防止条約の枠組みも、保有継続を前提とした合意を「核合意」とは呼ばない。
トランプ政権が描いていたとされるシナリオは、核活動の凍結と制裁緩和を柱にした大枠の取り決めだったとみられる。だが凍結と移転は全く別の話で、濃縮ウランをイラン国内に置いたまま「活動だけ止める」という合意では、欧米の議会が承認しない。
イラン核交渉における強硬派の抵抗は、合意の形を根本から制約しつつある。交渉担当者が何を合意しても、国内の権力構造がそれを骨抜きにする可能性が、今回の声明で改めて可視化されたといえる。

この先どうなる

今後の焦点は、ロウハニ時代のような「ロシアへの移転」という折衷案が再浮上するかどうかだろう。技術的には実績のある手法で、強硬派にとっても「廃棄ではなく一時的な保管」と説明できる余地がある。ただし、そのロシアが現在の地政学的文脈でどう動くかは読みにくい。
オマーンを仲介に重ねてきた米イランの間接協議は続くとみられるが、IRGCが公然と異議を唱え始めた以上、合意の着地点は当初想定より大幅に狭まった可能性がある。夏前の合意というスケジュール感は、かなり楽観的だったかもしれない。