EU調停という切り札が、いま静かに机の上に置かれつつある。米国主導の停戦交渉が完全に止まった今、ウクライナ外相のアンドリー・シビハがBBCに語った言葉は短くて重かった——「ロシア側との新たな協議フォーマットに移行する必要がある」。
シビハ外相がBBCに明かした「新フォーマット」とは
キプロスで開かれたEU非公式外相会合。議題の中心に据えられたのが、EUを正式な仲介者として迎える構想だった。シビハ外相は「欧州側のより積極的な関与」を求め、現行の交渉構造を抜本的に刷新したい意向を示している。
「ロシア側との新たな協議フォーマットに移行する必要がある」——アンドリー・シビハ、ウクライナ外相(BBC取材より)
調べると、この発言の背景には米国の交渉停滞だけでなく、ロシアによる大規模ミサイル・ドローン攻撃の激化という現実がある。モスクワはキーウへの「組織的な攻撃」を続けると宣言し、外国人に対して退避勧告まで出した。それでも「仲介に乗り出せ」というウクライナの要請は止まらない。むしろ、攻撃が激しくなるほど外交の突破口を探す動きが加速しているように見える。
メルケル・ドラーギ「仲介打診」の実態と2人が黙る理由
仲介候補として名前が挙がっているのが、アンゲラ・メルケル元ドイツ首相とマリオ・ドラーギ元イタリア首相だ。両者ともEUの重鎮であり、プーチンとの直接パイプを持ってきた人物として知られる。ここが引っかかった——ドラーギ側のスポークスマンは「現時点でのコメントは控える」とだけ述べた。メルケルも沈黙を保っている。
この「ノーコメント」は否定ではない。政治家が役職を離れた後に発する「今は答えられない」は、しばしば「条件が整えば動く」というサインとして読まれる。もっとも、ロシアが停戦に応じる気配はなく、フィンランドのスタッブ大統領は「ロシアが停戦に同意しない限り仲介は引き受けない」と条件付きで意欲を示した。
さらに問題がある。ロシア側はEUをウクライナへの武器供与を後押しする敵対勢力と位置付けており、「EUを仲介者として受け入れる」という前提自体をモスクワが拒否する可能性が高い。シビハ外相が求める「新ダイナミクス」は、相手方の同意なしには機能しないのが現実だ。
この先どうなる
EU調停が機能するシナリオには、少なくとも3つの壁がある。ロシアのEU敵視、仲介候補者の受諾、そして停戦前提の欠如——どれ一つとっても簡単には崩れない。ただ、米国が交渉から実質的に手を引いた今、欧州が動かなければ外交空白が長引くだけとも言える。メルケルかドラーギが正式な役割を引き受けるかどうか、次の数週間で輪郭が見えてくるんじゃないか。キプロスの会合を起点に、EU外交の賭けが始まった。