ホルムズ海峡を通るスーパータンカーの数が、ここ数週間で目に見えて減っている。Bloombergが報じたこの事態、数字で言えば世界の石油取引量の約20%が通る航路での話だ。封鎖でも機雷でもなく、タンカー各社が自分たちで撤退を選んだというのが、むしろ厄介なところじゃないかと思った。
保険料が判断を変えた——スーパータンカー撤退の内側
タンカー各社が撤退を決めた理由は、軍事的な圧力だけではなかった。船舶保険料が急騰し、万が一イラン当局に拿捕された場合のリスクを計算すると、航行を続けることが商業的に成り立たなくなった——そういう判断らしい。米イラン核協議は現在も継続中で、外交的な窓口は一応開いている。それでも保険市場はすでに「危険水域」の値付けをしていた、ということになる。
「スーパータンカーが姿を消し、ホルムズ海峡の通過量が急激に減少している」——Bloomberg, 2026年5月27日
原油供給リスクという観点でいちばん気になるのは、日本・中国・韓国・インドへの直撃度だ。この4カ国は中東産原油への依存度が高く、ホルムズ海峡が詰まれば代替ルートはほぼない。パイプラインの容量には限りがあるし、スエズ運河を迂回する選択肢はコストと時間の両方で現実的ではない。
1980年代のタンカー戦争と今回、何が違うか
歴史を調べると、タンカーが海峡から撤退する光景には前例があった。イラン・イラク戦争中の1980年代、いわゆる「タンカー戦争」でも船が相次いで撤退し、保険料が跳ね上がった。当時は最終的に米海軍が護衛に乗り出す形で収束した経緯がある。今回と決定的に違うのは、世界経済がその同じタイミングで別の供給ショックにも晒されている点だ。ウクライナ問題、半導体・食料の供給不安、そこにホルムズの機能低下が重なる。
スーパータンカー撤退が一時的な判断なのか、長期化するのかは現時点では読めない。ただ、海峡通過量の減少は既にデータに出ており、石油市場がこれをどう織り込むかは今週以降の原油先物価格に表れてくるはずだ。
この先どうなる
米イラン核協議の行方が、最大の変数になる。合意が近づけば保険市場の警戒感は後退し、タンカー各社も航路に戻る判断をしやすくなる。逆に交渉が暗礁に乗り上げれば、撤退は長期化し、原油供給リスクは価格に反映されていく。日本にとっては円安局面と原油高が重なるシナリオが最も痛い。エネルギー担当省庁や国内石油元売り各社が備蓄水準の見直しに動くかどうか、週内の動向を追う必要がある。タンカーが「消えた」ままでいるほど、選択肢は狭くなっていく。