ゴールドマン・サックスが米国債市場に関して異例の分析を公表した。イラン戦争が引き金を引いたドル急騰が、皮肉にも米国債への需要を押し下げていたというものだ。ブルームバーグが2026年5月27日に報じた。
ドル高が米国債を「割高」にした逆説的メカニズム
地政学的な緊張が高まると、通常はドルと米国債の両方に安全資産として資金が流れ込む。教科書通りの動きといえる。ところが今回は少し違う展開になっていたらしい。
イラン戦争を受けてドルが急騰した結果、外国投資家から見た米国債の実質的な購入コストが跳ね上がった。ドル建て資産を自国通貨で買う場合、ドルが強ければ強いほど同じ額の米国債を買うのに多くの自国通貨が必要になる。これが需要の腰を折ったとゴールドマンは指摘している。
Goldman Says Iran War Dollar Surge Weighed on Treasury Demand(ゴールドマン・サックスは、イラン戦争によるドル急騰が米国債需要を圧迫したと指摘した)― Bloomberg, 2026年5月27日
安全資産を守るための「有事のドル買い」が、同じ安全資産である米国債の売り手になってしまう。金融市場の歪みというよりも、基軸通貨国が抱える構造的なジレンマに近い話じゃないかと感じた。
ホルムズ海峡リスクが長引くほど、米国の借金コストが上がる
問題は一時的なのか、それとも長期化するのか、という点だ。ホルムズ海峡を巡る緊張が続けば、イラン戦争のドル高圧力も消えにくい。外国投資家が米国債を避ける時間が長くなるほど、米国の国債利回りには上昇圧力がかかり続ける。
米国は毎年巨額の国債を発行して財政を賄っている。需要が細れば金利を上げて投資家を引き付けるしかなく、それは利払いコストの増大を意味する。今年だけでも数兆ドル規模の借り換えを控える米財務省にとって、タイミングとしては最悪に近い局面といえそうだ。
ゴールドマンの分析はホルムズ海峡の金融市場への波及を具体的なメカニズムで示した点で注目に値する。石油の通過ルートとして語られることが多いホルムズ海峡だが、その緊張は債券市場を通じて米国の財政そのものに跳ね返ってくる。
この先どうなる
焦点は二つあると思っている。一つは、イランとの緊張が短期間で収束するかどうか。停戦や交渉の進展があれば、ドル高は急速に巻き戻す可能性があり、米国債需要も回復に向かうだろう。もう一つは、外国中央銀行が米国債保有の方針を見直すかどうか。今回の件がドル建て資産への信認低下につながるなら、影響は一時的なドル高にとどまらない。ゴールドマンの警告が「一度きりの異常値」に終わるか、新たなリスクシナリオの序章になるか。米国債市場の動向から目が離せない状況が続く。