イラン革命防衛隊系メディアが、大統領の命令を正面から否定した。これは単なる省庁間の摩擦じゃない——ペゼシュキアン大統領がインターネット規制の解除を命じると、IRGCに近いメディアが即座に「大統領にその権限はない」と公言した。民主的な選挙で選ばれたはずの大統領が、自国のメディア統制をめぐって軍事組織に封殺される。そんな光景が2025年、公開の場で起きた。
ネット遮断が「武器」になった日——2019年の死者1500人
イランでインターネットを止めることが、なぜここまで権力の核心になるのか。調べると2019年の燃料値上げ抗議に行き着く。政府は抗議が全国に拡大した直後に通信を完全遮断し、その間に1500人以上が死亡したとされている。遮断は情報を止めるだけでなく、外部への映像流出も防いだ。つまりネット統制は「見せない」ための装置として機能してきたわけだ。
ペゼシュキアン大統領はその統制に手を入れようとした。だがIRGCにとって、この問題は通信政策ではなく政権維持の生命線そのもの。だから黙っていられなかったんだろう。
「イランのマスード・ペゼシュキアン大統領がインターネット規制解除を命令した後、革命防衛隊のメディアが大統領の権限に公然と疑問を呈し、選挙で選ばれた政府と強力な安全保障組織の間の緊張が浮き彫りになった」(Reuters)
ここで引っかかるのは、IRGCが「公然と」反発したという点だ。これまでも改革派大統領とIRGCの間には摩擦があったが、系列メディアが堂々と大統領の権限を否定するのは異例の度合いが違う。ハメネイ師の意向がそこに乗っているとみるのが自然だろう。
ドーハ核交渉と「割れたイラン」——交渉相手はどっちだ
タイミングが悪い。ちょうど今、ドーハでは米イランの核交渉が続いている。外交の席でイランの「顔」は誰なのか——ペゼシュキアン大統領なのか、それともIRGCを束ねるハメネイ師なのか。この内部亀裂が露呈したことで、アメリカ側が「約束を守れる相手と話しているか」を疑い始めるリスクが出てきた。
ペゼシュキアン大統領はもともと実用路線の穏健派として当選した。西側との関係改善やネット規制緩和は支持層への公約でもあったはずだ。それがIRGCに一蹴された形になれば、国内の改革派有権者へのダメージも小さくない。
この先どうなる
短期的にはペゼシュキアン大統領がIRGCと正面衝突を続けるとは考えにくい。最高指導者の構造的な優位は変わらず、大統領が折れる形で幕引きになる可能性が高そうだ。ただしインターネット規制への国民の不満は蓄積されており、若年層を中心とした反発が次の抗議運動の火種になりうる。ドーハ核交渉については、イラン国内が分裂した状態で合意に至っても実行が担保されないという懸念が交渉を複雑にするだろう。IRGCとイラン政府の権力バランスがどこに落ち着くか——それが今後の対外関係を読む上で最も注目すべき変数になってくる。