日本防衛費倍増——その数字が現実になる。79年間、日本はGDP比1%という暗黙の上限を守り続けてきたが、石破政権はその枠組みを公式に葬り去る方針を固めた。ウォール・ストリート・ジャーナルが報じたこの決定、規模にして年間10兆円超。NATO加盟国に課されるGDP比2%基準にほぼ並ぶ水準だ。
79年の「自縛」を破った3つの圧力
なぜいま、なのか。調べると、三方向からの圧力が同時にかかっていた構図が見えてきた。
ひとつ目は中国の軍備拡張。ここ10年で中国の国防予算はほぼ倍増し、海軍力は質・量ともに急伸している。台湾海峡の緊張が「もしも」から「いつ」の話になりつつある中、自衛隊の装備は旧世代のまま据え置かれてきた。
ふたつ目は北朝鮮のミサイル頻発。2022年以降、北朝鮮は年間30発を超えるペースで試射を繰り返し、日本列島を射程に収めるICBMの実用化を着々と進めている。
そして三つ目がトランプ要因。「同盟コストを払え」という圧力は日本への直接の脅しではないが、安保ただ乗り論が再燃する中で、日本が自前の防衛力増強を示すことは政治的な保険になる。
「日本は防衛費をほぼ倍増させることを誓約した。長年にわたって軍事支出をGDPの約1%に抑制してきた同国にとって、歴史的な転換点となる。」(ウォール・ストリート・ジャーナル)
GDP比2%という数字はNATOの目標値と同じだが、日本の場合は単純な量の拡大にとどまらない。2022年末に閣議決定された安保三文書には「反撃能力」——かつての「敵基地攻撃能力」——の保有が明記されており、今回の予算増はその実装費用を裏付けるものでもある。
「盾」から「矛」へ、変わる自衛隊の役割
長射程ミサイルの取得計画が具体化しつつある。トマホーク巡航ミサイルの輸入に加え、国産の12式地対艦誘導弾の能力向上型が2026年度から順次配備される見通しで、射程は従来の100キロ台から1000キロ超に伸びるとされる。
これは日本の防衛政策が「専守防衛」の看板を外さないまま、実態として攻撃的な抑止力を持ち始めることを意味する。韓国・中国・ロシアが敏感に反応するのは当然で、周辺国の軍事計画にも影響を与えていく可能性がある。
財源論は引き続き揺れている。法人税・たばこ税・所得税の増税で段階的に賄う方針だが、増税の時期は選挙の動向に左右されてきた経緯がある。10兆円を継続的に捻出できるかどうか、予算の持続性は別の問題として残っている。
この先どうなる
2027年度までにGDP比2%を達成するというスケジュールは変わっていないが、道半ばで課題も積み上がっている。防衛産業の生産能力不足、自衛隊員の慢性的な人員不足、そして増税への国内世論の抵抗。お金を積めば即座に戦力になるわけでもない。
一方、アメリカ側からは歓迎のシグナルが出ている。米軍との指揮統制の一体化や、フィリピン・オーストラリアとの三角形の安保ネットワーク強化も同時進行中で、日本の防衛力増強は単独の動きというより、インド太平洋の集団的な抑止力再編の一部として動いている。
「1%の呪縛」が解けた後、日本がどこまで走るのか——その着地点はまだ見えていない。