IRGC権限の壁が、またひとつ可視化された。イランのペゼシュキアン大統領がインターネット規制の解除を命じた直後、革命防衛隊(IRGC)系メディアが「大統領にそのような決定を下す権限があるのか」と公然と疑問を呈した。選挙で選ばれたはずの国家元首が、自国のネット規制すら解除できない――この一幕が、イランの統治体制の歪さを改めて浮き彫りにしている。
「命令」を3秒で無効化したIRGCの論理
ペゼシュキアン政権は昨年の大統領選で改革派として台頭し、国民に「開かれたインターネット」を約束した経緯がある。VPNが日常化するほど規制が厳しいイランで、この公約は有権者に刺さった。だから今回の命令も、政権として当然の履行だったはずだった。
ところがIRGC系メディアは即座に牙をむいた。インターネットインフラの実権は最高指導者ハメネイ師に近い組織が握っており、大統領府の管轄外という立場を明確にしたわけだ。行政命令が別の権力機構に「受け取り拒否」される光景は、外から見ると異様に映るが、イランでは珍しくない。
「イランのマスード・ペゼシュキアン大統領はインターネットサービスの復旧を命令したが、イスラム革命防衛隊(IRGC)に連なるメディアは、大統領にそのような決定を下す権限があるのかと疑問を呈した。」(Reuters, 2026年5月26日)
IRGCは軍事組織という顔だけでなく、建設・石油・通信・金融にまたがる経済コングロマリットでもある。情報インフラの支配もその延長線上にある。ペゼシュキアン大統領のインターネット規制をめぐる命令が通らなかった背景には、こうした経済的利権の問題も絡んでいるとみられている。
核交渉の行方を握るのは大統領室じゃなかった
タイミングが悪すぎる、とも言える。イランと米国・欧州との核交渉は現在、合意まであと一歩とも言われる最終局面にある。交渉窓口はペゼシュキアン政権の外務省が担っているが、制裁緩和後の経済的恩恵をどこが享受するかという問題になった瞬間、IRGCの存在が必ず浮上する。
欧米側の交渉担当者が常々悩む点がここだ。大統領と合意しても、それを履行する権限が別の機関にある可能性がある。今回のインターネット規制をめぐる衝突は、そのリスクをあらためて証明してしまった格好だ。イラン権力構造の複層性は、交渉文書に書けないリスク要因として今後も残り続けるだろう。
イランの国民にとっては、もっと切実な話でもある。ペゼシュキアン大統領への支持票は「変化への期待」だったはずで、命令が公然と無視される姿を見せられた失望感は小さくない。改革派政権が機能不全に陥るたびに強硬派が勢いを増す、というサイクルをイランは何度も繰り返してきた。
この先どうなる
短期的には、インターネット規制の解除は事実上見送られる可能性が高い。IRGCが「権限なし」の立場を崩さない限り、大統領令は空振りのまま終わる。ただしペゼシュキアン政権がここで引くと、国内支持基盤が一気に冷える。何らかの「部分解除」という妥協点を探る動きが、水面下で始まるとみられる。核交渉との連動も注目点だ。米国が制裁緩和のカードを切る場面で、イランの権限所在が曖昧なままでは合意の実効性が担保できない。「誰と握手すれば約束が守られるのか」という問いへの答えが出ない限り、交渉は宙ぶらりんのまま続くんじゃないか。