アイスランドEU加盟の議論が、にわかに熱を帯びている。火をつけたのは、トランプ大統領によるグリーンランド併合発言だった。「次はアイスランドかもしれない」——そんな地政学的な肌感覚が、長年のタブーを動かしつつある。

グリーンランド発言がアイスランドに落とした影

グリーンランドはデンマーク自治領で、北大西洋のほぼ真ん中に位置する。アイスランドとは地理的にも歴史的にも近い存在だ。トランプが「グリーンランドを取る」と繰り返すなか、アイスランド国内では静かな計算が始まったらしい。

アイスランドはNATO加盟国ではある。ただ、NATOは集団防衛の枠組みであって、経済的・政治的な圧力に対する盾にはなりにくい。超大国が「買う」と言い出したとき、同盟条約が抑止力として機能するかどうか——そこへの疑念が、EU加盟という選択肢を浮上させた格好だ。

「アイスランドはこれまでヨーロッパの他国とは一線を画してきた。しかしトランプ大統領のグリーンランドへの脅威が、その姿勢の再考を促している。」(The New York Times)

ニューヨーク・タイムズがこう報じたのは、単なる観測気球ではなさそうだ。アイスランド政府内でも、EU加盟を「選択肢から外す理由がなくなった」という声が出始めているという。

農業保護という「壁」が崩れかけている理由

アイスランドがEU加盟を避けてきた最大の理由の一つが、漁業・農業保護だった。EU共通農業政策に縛られれば、国内の一次産業が打撃を受けるという懸念は根強い。人口約37万人の小国にとって、この問題は経済的な死活問題でもある。

それでも今、その「壁」が以前ほど高く見えなくなっているのは、比較対象が変わったからじゃないか。農業政策のコストと、超大国から孤立した状態で地政学的圧力を受け続けるコスト——どちらが重いか、という問いに変わりつつある。

EUはすでにグリーンランド問題でもデンマークへの連帯を示している。集団の傘の外にいることのリスクが、数字ではなく感覚として伝わってきた、そういうタイミングだったのかもしれない。北大西洋安全保障の文脈で見れば、アイスランドの戦略的価値はむしろ上がっており、EU側も歓迎ムードとされる。

この先どうなる

アイスランド議会では加盟の是非を問う議論が活発化しており、国民投票の実施を求める声も出ている。ただし、加盟交渉が始まっても完結まで数年はかかる。当面は「検討している」という姿勢そのものが、外交的なシグナルとして機能する段階だろう。

トランプ政権の動向次第では、北欧・北大西洋地域の小国がこぞってEUとの距離を縮める連鎖が起きる可能性もある。グリーンランド発言が意図せず、欧州統合の求心力を高めているとすれば、なんとも皮肉な話ではある。