カナダのLNG輸出が、米国という「一本道」から外れ始めた。カナダとドイツが天然ガスの輸出入に関する合意を締結したと報じられ、その規模と戦略的含意は「歴史的」と表現されるほどだという。トランプ政権による貿易圧力が続く中、カナダが対米依存のリスクを切実に感じ始めたのは、ここ数年のことだった。その答えの一つが、今回のドイツとの合意だったらしい。
カナダが西海岸に目を向けた理由
カナダのLNG輸出はこれまで、パイプラインで南下する米国向けが圧倒的多数を占めてきた。ところがトランプ政権が関税をちらつかせ、貿易交渉を揺さぶるたびに、この一極集中の脆さが露呈してきた。
調べると、カナダ西海岸のブリティッシュ・コロンビア州ではLNG液化・輸出ターミナルの整備が進んでいる。「LNG Canada」プロジェクトがその代表格で、太平洋を渡ってアジアや欧州へ届けるルートが現実味を帯びつつある。今回のドイツ合意は、その出口を欧州にも開く動きと重なる。西海岸から大西洋回りではなく、パナマ運河経由で欧州へ――コストは高いが、地政学的な保険としての価値は計算できないほど大きい。
ドイツが「脱ロシア」の次に求めたもの
一方のドイツは、2022年以降のロシア産ガス遮断を受けて、エネルギー調達の根本から作り直す作業を続けてきた。米国産LNGの輸入を急拡大させた半面、「米国一国依存」という新たなリスクも抱え込んでしまっている。
「この合意は両国にとって重要であり、カナダは米国依存から離れた新市場を求め、ドイツはエネルギー供給の多角化を図ろうとしている」
この一文が、合意の核心をほぼ言い切っている。ドイツ側がカナダに食指を動かすのは、単なる価格競争ではなく「調達先の分散」という安全保障の論理だった。欧州天然ガス供給の多角化という長年の課題に、カナダという新プレイヤーが加わる形になる。
ただし、合意と実現の間には時間と投資という高い壁がある。カナダ西海岸のインフラはまだ整備途上で、大量輸出が軌道に乗るまでには数年単位のラグが生じる見込みだ。紙の上の合意を「実弾」に変えられるかどうかが、今後の評価を分ける。
この先どうなる
カナダのLNG輸出がドイツ向けに本格稼働すれば、米国産LNGが欧州市場で享受してきた優位性に、初めて具体的な競合が生まれる。欧州の買い手にとっては交渉カードが増え、価格面でも有利になりうる。
問題は実行スピード。インフラ投資の確保、環境規制のクリア、カナダ国内の政治合意——どれが欠けても計画は止まる。今回の合意を「第一歩」と見るか「絵に描いた餅」と見るかは、向こう2〜3年のインフラ進捗にかかっている。それでも、欧州天然ガス供給の地図が少しずつ書き換わり始めている、という事実は変わらなそうだ。