米イラン核交渉が、今まさに秘密裏に動いている——オマーンを舞台にした複数回の接触をAPが報じたのは、交渉が「もう始まっている」という意味だった。米側が提示した枠組みは、民間核プログラムを容認しつつ兵器級ウラン濃縮を完全停止させ、国際査察も受け入れさせるというもの。一見バランスが取れているように見えるが、イラン側がどうしても飲めない条件がそこには隠れていた。
革命防衛隊だけは渡せない——イランが一歩も引かない理由
イラン側が最も神経をとがらせているのが、革命防衛隊(IRGC)への制裁をどう扱うかという点らしい。革命防衛隊は軍事組織というより、イランの石油収入・建設・通信・密輸ネットワークまでを握る「もう一つの政府」に近い存在だ。ここへの制裁が続く限り、体制中枢の資金脈は断たれたまま。最高指導者ハメネイ師にとって、革命防衛隊を守れない合意は合意とは呼べない、そういう話になる。
「米国とイランはオマーンで複数回の交渉を実施。米側は、イランが民間核プログラムを維持しつつ兵器級濃縮を停止する枠組みを提示したと、交渉事情に詳しい関係者が明らかにした。」(AP通信)
2015年のJCPOA(核合意)崩壊後、イランのウラン濃縮度は当時の上限3.67%から一気に60%超まで跳ね上がっていた。兵器級とされる90%にはまだ距離があるが、技術的なハードルはもうほとんどない水準だ。その状態でテーブルについているイランが何を値踏みしているか——制裁解除の「どこまで」かという一点に尽きる。
ホルムズ海峡20%、原油市場が静かに待っているもの
交渉が合意に向かえば、真っ先に反応するのは原油市場とみられている。ホルムズ海峡を通過する原油は世界輸送量の約20%。イランが関与するリスクが薄れれば、リスクプレミアムが剥がれ落ちて価格に下押し圧力がかかる。制裁解除でイラン産原油が市場に戻ってくれば、供給増のインパクトも重なる。オマーン仲介の交渉が「核問題だけの話」に見えないのはそのためだ。
もっとも、2018年のトランプ政権による一方的な離脱以降、イランは合意への信頼を一度失っている。「またすぐ破られる」という疑念を持ったまま交渉に臨んでいるとすれば、革命防衛隊制裁をめぐる強硬姿勢はある種の「担保取り」でもある。
この先どうなる
最大の分岐点は、米側が革命防衛隊制裁の部分的解除に踏み込めるかどうか。ここを譲ればイラン国内での政治的合意を得やすくなる一方、米議会やイスラエルからの反発は必至で、バイデン政権以上にトランプ政権がその圧力に耐えられるかは不透明だ。オマーン仲介の交渉チャンネルは現在も生きているとされ、次のラウンドで革命防衛隊の扱いについて何らかの「落とし所」が示されるかが焦点になる。合意の芽は消えていないが、かなり細い——というのが現時点での見立てだろう。