ホルムズ海峡封鎖リスクが、交渉テーブルの上でいったん棚上げされた——少なくとも、市場はそう読んだ。米国がイランとの核協議に「前進があった」と公式に認めた直後、原油価格は即座に下落した。世界の石油輸送量の約20%が通過するこの海峡をめぐり、Bloombergは5月25日、再開交渉が具体的な局面に入ったと報じた。
なぜ原油は「交渉進展」でここまで動いたのか
ホルムズ海峡が止まれば、中東産原油を積んだタンカーの航路は一夜で断たれる。サウジアラビア、UAE、イラク——湾岸主要産油国の輸出の大半がこの32キロの水道を通る計算で、封鎖が現実になれば原油供給は世界規模で即座に絞られる。だからこそ「封鎖懸念の後退」というニュース一本で、市場が反射的に売りに動くのは理解できる話だ。
米イラン核協議は今回で第5回目にあたるとされ、交渉の積み上げ自体は続いていた。ただし「前進」という言葉が出るたびに価格が動くということは、市場がいかにホルムズの地政学プレミアムを原油価格に織り込んでいたかを逆説的に示してもいる。
「米国がホルムズ海峡再開に向けた合意の進展を強調する中、原油価格が下落した」——Bloomberg, 2026年5月25日
今回の下落はいわば「安心売り」。戦争リスクが減ったと判断した投資家が、ポジションを巻き戻した格好だ。ただ、下落の速度が速かった分、逆回転も早い可能性がある。
楽観シナリオが崩れると、原油はどこへ向かうか
落とし穴はここにある。米イラン核協議の最大の焦点——イランのウラン濃縮レベルをどこで止めるか——には、今のところ根本的な合意が見えていない。イランは高濃縮ウランの保有継続を主張し、米国は核兵器転用リスクの排除を求める。この溝は一夜で埋まる性質のものではなかった。
セカンダリキーワード的に言い換えれば——ではなく、実際の市場参加者の懸念に置き換えると、こうなる。「交渉前進」から「交渉決裂」への転換は過去にも何度か起きており、そのたびに原油は数ドル単位で跳ね上がってきた。今回の急落分が、そのまま急騰の「戻し代」になり得る。原油価格下落は今のところ「先取り」に過ぎないという見方は、市場の少なくない部分に残っているらしい。
加えて、OPECプラスの増産方針と米国のシェール生産量という需給の地合いも絡む。地政学リスクが後退しても、供給過剰の圧力が続けば価格は戻りにくい。逆に交渉が再び行き詰まれば、需給の引き締まりと地政学プレミアムが同時に価格を押し上げる展開も十分あり得る。
この先どうなる
次の焦点は交渉の「中身」が公開されるかどうかだ。「前進」という言葉はあくまで米側の発表であり、イランが同じ温度感を示しているかは別の話になる。過去の核合意交渉(JCPOA)でも、一方が楽観コメントを出した直後に相手側が否定して交渉が後退したケースがあった。
市場は今、ホルムズ海峡封鎖リスクの「価格」を急いで修正しているところだ。それが正しい修正なのか、早まった修正なのかは、次の交渉ラウンドの結果が出るまでわからない。原油価格がいまのレベルで落ち着くのか、再び上を試すのか——答えは交渉室から出てくる。もう少し待つしかない局面だ。