エボラ出血熱 コンゴ民主共和国 2025——感染疑い例が850件を超え、死者数が200人の大台を突破した。WHOが「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」を宣言したのは、感染拡大が当初の想定より速いと判断したからだ。ここまではまだ「大型アウトブレイク」の範囲に収まる話かもしれない。問題は、この株に対して承認されたワクチンが一本も存在しないという事実だった。

赤十字ボランティア3人の死が示した「最前線の穴」

今月初め、死亡が確認されたのは遺体処置にあたっていた赤十字ボランティア3名。感染経路として最も危険な「遺体からの感染」が、支援の担い手を直撃した格好だ。

国境なき医師団(MSF)でプログラム・マネージャーを務めるケイト・ホワイト氏は、マンチェスター空港から現地へ向かいながらBBCの取材に応じた。彼女が口にした言葉は、楽観論の入り込む余地をほとんど残さない。

「これだけ長年にわたりアウトブレイクを目撃してきながら、いまだに包括的な医療対抗手段――治療薬、ワクチン、迅速展開できる診断検査――が存在しない」

ホワイト氏はアフリカの過去のエボラ流行にも関わってきたベテランだ。その彼女が「物資と人員を届けられない状況に極度の危機感を覚える」と言うのだから、現場がどれだけ追い詰められているか想像できる。

WHOがPHEICを宣言しても「武器」がない

WHO公衆衛生緊急事態・PHEICの宣言は、国際社会に資金と人材の集中投下を促す最上位の警告だ。2014〜16年の西アフリカ流行でも発令され、最終的に1万1000人超の死者を出した。今回は規模こそまだ小さいが、一つ決定的に違う点がある。

2014年流行後に開発が加速した「rVSV-ZEBOV(ワクチン名:Ervebo)」は、ザイール型エボラウイルスに対して高い有効性を示した。ところが今回コンゴで広がっているのは別の株とされており、既承認ワクチンの適用外という状態が続いている。実験的ワクチンの開発は進んでいるものの、承認済みの手段が「ゼロ」という状況は、2014年と同じ悪夢の再現に見えなくもない。

MSFが緊急派遣をかけても「届けるものがない」という逆説——これが2025年のエボラ対応が抱える最大のジレンマだ。

この先どうなる

PHEICの宣言を受け、国際的な資金拠出と医療チームの追加派遣は加速するとみられる。焦点は二つ。一つは、実験段階にある株対応ワクチンの緊急使用許可がどのタイミングで下りるか。もう一つは、紛争や道路インフラの問題が多いコンゴ東部への物資輸送をどう確保するかだ。

WHO公衆衛生緊急事態・PHEICの宣言が「警報」だとすれば、次の数週間はその警報に世界が実際に応えられるかどうかの試金石になる。ホワイト氏の言葉を借りれば、「何年も同じ問いを繰り返してきた」——今度こそ答えが出るかどうか、注視が必要だ。