ホルムズ海峡封鎖交渉の行方をめぐり、5月25日に奇妙なすれ違いが起きた。米国の高官筋が「ワシントンとテヘランは合意に近づいている」と発言した直後、原油価格は下落。ところがイラン外務省報道官はその数時間後、「合意は差し迫っていない」と即座に打ち消した。市場が一度織り込んだ楽観論は、あっさりと塗り替えられた格好だ。

イラン外務省報道官が語った「多数議題で前進、しかし——」の意味

イラン側の発言をよく読むと、全否定ではないのが興味深い。イラン外務省報道官声明の要旨はこうだった。

「ホルムズ海峡開放に関する合意は差し迫っていないが、多くの議題でコンセンサスに達した」

つまり「交渉は死んでいない、ただし決着はまだ先」というメッセージ。外交的には珍しくない言い回しだが、米側の「closing in(合意に迫っている)」という表現とは明らかに温度差がある。この温度差こそ、市場が最も警戒しているポイントらしい。

米イラン核合意の文脈でも似たパターンは繰り返されてきた。交渉担当者が前向きな発言をして相場が動き、その後に「条件が合わない」と差し戻される——そのサイクルがトレーダーの間では半ば織り込み済みになっている。今回も同じ流れを踏んだ、とみるのが自然だろう。

原油輸送量の2割が通る海峡で、何が起きると何が壊れるか

ホルムズ海峡封鎖交渉がこれだけ注目される理由は、数字を見れば一目瞭然だ。世界の原油輸送量のおよそ2割がこの海峡を経由している。封鎖が現実になれば、原油価格の急騰は避けられないし、精製・化学・物流のサプライチェーンが連鎖的に詰まる。エネルギーコストは電気代から食品価格まで幅広く跳ね返ってくる。

だからこそ米国は交渉に前のめりで、イランはそれを知っている。交渉カードとしてのホルムズは、イランにとって数少ない強い手札のひとつ。急いで切る理由は、イラン側にほとんどないわけだ。

米イラン核合意の再交渉と今回のホルムズ開放問題は、水面下では連動している可能性が高い。制裁緩和、核開発制限、海峡の通行保証——それぞれが交換条件として絡み合っているとすれば、どれか一つが詰まれば全部が止まる構造になっている。

この先どうなる

外交チャンネルは閉じていない。それは両国にとって現時点では都合がいい状態で、米国は「進展している」と国内向けに言え、イランは「条件を詰めている」と言い訳できる。ただし、この宙吊り状態が長引けば市場の不確実性が積み上がり、ヘッジコストが原油先物に反映され続ける。次の動きとして注目されるのは、6月以降に予定されるとされる直接協議の場が設けられるかどうか。イラン外務省報道官の次の発言が、また相場を動かす可能性は十分にある。のんびり構えていられる話じゃない。