ネタニヤフ首相がヒズボラへの空爆激化を命じた月曜夜、イスラエル軍はレバノン東部のベカー高原に向けて新たな攻撃を開始した。これで4月16日に発効したばかりの45日停戦合意は事実上の紙くずになった格好だ。「600人以上のテロリストを排除した」と成果を強調しつつ、「今こそ強度を上げるべき時だ」と続けたあたり、この宣言が終幕の宣告ではなく序章だったことがわかる。

ベカー高原まで戦線拡大——何が変わったのか

停戦期間中、イスラエルの攻撃はレバノン南部に限られていた。イスラエル軍はそこに駐留し続け、ドローンやロケット弾の発射拠点を叩くという名目で局所的な交戦を続けてきた経緯がある。

ところが今回、標的はシリア国境に接する東部のベカー高原にまで伸びた。ベカー高原はヒズボラの重要な後方拠点が集中するエリアとして知られており、ここへの攻撃拡大はゲームチェンジャーになりうる。ベイルートへの攻撃拡大を恐れる声がレバノン政府内でも出ているらしい。

「イスラエルはヒズボラと交戦中だ。軍に壊滅的な打撃を与えるよう指示した」——ネタニヤフ首相(BBC報道より)

この言い回し、「交戦中」という現在進行形を選んだのが気になった。過去形ではなく現在形。戦争終結の意思がないことを言葉の選び方で滲ませているようにも読める。

イラン核交渉の大詰めと「完全停戦」の衝突

レバノン停戦崩壊2025という文脈で最も注目すべきは、タイミングの問題だろう。アメリカとイランの核交渉がまさに大詰めを迎える中で、イスラエルが攻勢を強めた。

イラン政府は「地域全戦線の完全停戦」を和平条件として譲らない姿勢を示している。つまりレバノンとガザの戦闘が続く限り、核合意のテーブルに着かないというわけだ。イスラエルはその逆——ヒズボラへの攻撃継続にこだわり続けている。

この二つの立場は論理的に両立しない。どちらかが折れるか、交渉が壊れるか。ワシントンはどちらを優先するのか、という踏み絵を迫られている状況でもある。

この先どうなる

イスラエル軍の「強度を上げる」宣言が本気なら、ベカー高原の次はベイルート郊外が視野に入ってくる可能性がある。一方でアメリカはイランとの核合意を成立させたい政治的動機を抱えており、イスラエルへの圧力を強める局面も考えられる。

ただ、ネタニヤフ政権が外圧で攻撃の手を止めた前例は多くない。「600人排除」という数字を戦果として国内に打ち出した以上、ここで止まれば政治的に損をするという計算も働くはずだ。核交渉とレバノン戦線という二つの時計が同時に動いている今、中東情勢は週単位で別の景色になってもおかしくない。