インド電力危機が、想定より早く臨界点に近づいている。イラン戦争によるペルシャ湾岸の供給ルート混乱が天然ガスを直撃し、折しも電力需要は過去最高水準を更新中——この二つが重なったタイミングは、最悪と言っていい。

ガス火力の燃料が消えていく、14億人を支えるインフラの綻び

インドはガス火力発電の燃料調達をペルシャ湾岸に大きく依存してきた。カタールやUAEからのLNG輸送はホルムズ海峡を通過するルートが主軸で、イラン戦争による海上輸送の混乱がこのパイプラインを直撃している格好だ。

追い打ちをかけているのが猛暑。インド北部では気温が47〜48℃に達する日が続いており、冷房需要の急増が電力消費を押し上げた。需要が記録を更新しているのに、燃料が入ってこない。現場の電力会社にとっては八方塞がりの状況らしい。

「Iran War Squeezes India's Gas Power Supply as Demand Hits Record」——Bloomberg, May 25, 2026

電力不足が長引けば、連鎖反応は避けられない。工場の稼働停止、農業用ポンプへの給電カット、そして都市部の計画停電。インドの製造業は「メイク・イン・インディア」政策のもとで世界のサプライチェーンに深く組み込まれており、停電が長期化すれば半導体や繊維、医薬品の生産にも影響が波及する可能性がある。

世界第3位のエネルギー消費国が揺れるとき、余波はアジア全域へ

イラン戦争エネルギー問題の影響は、インドにとどまらない。インドが代替調達先を求めてスポット市場に殺到すれば、アジア全体のLNG価格が跳ね上がる。日本や韓国、東南アジアの電力会社も同じ市場で燃料を買っているからだ。

天然ガス供給混乱が長引くなかで、インド政府は石炭火力の出力引き上げと再エネの緊急導入加速を検討しているとされるが、どちらも即効性には乏しい。石炭の輸送インフラはすでに逼迫気味で、太陽光は夜間・曇天には機能しない。「橋渡しの燃料」がまさに橋ごと流されている、という状況じゃないか。

この先どうなる

ホルムズ海峡の通航安全が早期に回復しない限り、インドのガス火力は低出力運転か停止に追い込まれるリスクが続く。モディ政権がロシアや米国からのLNG調達拡大に動く可能性があるが、既存契約の切り替えには数週間〜数カ月かかる。その間、インド電力危機は深刻度を増していく。世界がイラン戦争を「中東問題」として見ている間に、その余波はすでに14億人の日常電力を揺さぶっていた——というのが、今この瞬間の実態だ。