インドネシア輸出規制が、いよいよ紙の上から現実へと動き始めた。貿易次官ディア・ロロ・エスティ・ウィドヤ・プトリが中国APECの場でBloombergに語ったのは、パーム油・石炭・フェロアロイの3品目を束ねる輸出一元管理機関が「最終段階」にあるという宣言だった。世界最大のパーム油輸出国が国家の手で売り先をコントロールし始める——その意味合いは小さくない。
ニッケル禁輸から3品目へ、インドネシアが繰り出す資源ナショナリズムの次の一手
インドネシアがニッケル原鉱の輸出を禁止したのは2020年。その後、国内製錬を義務付けることで電気自動車向けバッテリー素材のサプライチェーンに割り込み、交渉力を一気に高めた。今回の動きはその応用版と見るべきだろう。パーム油・石炭・フェロアロイという3品目はいずれも世界市場で需給が拮抗する素材で、一国の輸出政策が価格に直撃する。
石炭については日本や韓国の電力会社が長期契約を結ぶ主要調達先の一つ。フェロアロイは特殊鋼やステンレス鋼の原料であり、自動車・家電・建設機械メーカーのサプライチェーンに深く入り込んでいる。パーム油に至っては食品・化粧品・バイオ燃料と用途が広く、価格変動の影響が末端消費者まで届きうる。
「パーム油・石炭・フェロアロイを対象とした輸出一元管理機関の設立を政府が最終段階に入っていると述べた。」(Bloomberg、ディア・ロロ・エスティ・ウィドヤ・プトリ貿易次官)
報道によれば、この方針転換は「投資家を動揺させた」とBloombergは伝えている。政府が輸出窓口を一本化すれば、民間企業が独自に築いた販売ルートや価格交渉の余地は狭まる。外資系の資源開発プロジェクトにとってはルールが事後的に変わるリスクとして映るらしく、新規投資の判断を保留する動きも出ているとされる。
「管理強化=価格上昇」とは限らない、買い手が持つ反撃の手札
売り手が一元管理すれば価格交渉力が上がる——理屈はそうだが、歴史を振り返るとそう単純でもなかった。ニッケルでインドネシアが成功したのは、中国のEV市場という巨大な需要増と時期が重なったから、という見方もある。石炭については再生可能エネルギーへの移行が進む中、買い手側が調達先の多角化を急ぐ動機を持っている。オーストラリア産やコロンビア産との競合が激化すれば、一元管理機関が「高値設定」を維持できる期間は限られるかもしれない。
日本の商社や電力会社はすでに調達先分散を進めているが、短期では代替が難しい品目もある。特にパーム油の代替油脂(大豆油・菜種油)は農地制約があり増産に時間がかかる。フェロアロイも生産設備の建設に数年単位の時間軸が必要で、依存度を一気に下げるのは難しいのが現状だ。
この先どうなる
注目すべき次の節目は「一元管理機関の正式発足時期」と「対象品目の拡大可能性」の二点だろう。インドネシア政府は過去にも政策の実施時期を延期したケースがあり、市場は「本当に動くのか」を見極めようとしている段階ともいえる。一方で、2024年の大統領交代以降、資源ナショナリズムを加速させる方向性は変わっておらず、今回の発言は政策の後退でなく前進と解釈するのが自然だろう。パーム油石炭フェロアロイの価格変動が続くようなら、日本の製造業も調達戦略の見直しを迫られる局面が近づいている。資源ナショナリズムという潮流に、買い手側がどこまで対応できるかが問われる。