ネタニヤフ イラン核合意をめぐる「一致」という言葉が、実は深い溝を隠しているらしい。イスラエルのネタニヤフ首相はトランプ大統領と「イランに核兵器を持たせない」という目標で足並みがそろっていると表明した。ところが専門家たちが見ているのは、交渉中の枠組みがイランの核・ミサイル能力を根本から解体するつくりになっていないという事実で、そこに両国の深刻なずれが浮かび上がっている。
合意文書でも消えない「ミサイル網」という火種
調べてみると引っかかるのは、弾道ミサイルの扱いだった。核濃縮を一定程度容認しつつ監視を強化する方式が交渉の軸になりつつあるとされるが、イランが保有する弾道ミサイル網には直接手が届いていない。核弾頭がなくても、精密誘導ミサイルが無傷で残れば、イスラエルにとって脅威の輪郭はほとんど変わらない。イラン弾道ミサイル能力の問題を外した合意は、外交文書としては成立しても、安全保障の担保にはならない——そういう見立てをアナリストたちが示している。
中東の力学において、ミサイルは核よりも「いま使える脅し」という側面がある。射程2000キロを超える弾道ミサイルはイスラエル全土を射程に収めており、その点でイスラエルの危機感は純粋に地理的なものでもある。
「アナリストらによれば、イスラエルは潜在的な合意がイランの核・ミサイル能力を大幅に低下させないことを懸念していると報じられた。」(The New York Times)
米国とイスラエルが「目標は同じ」と繰り返せば繰り返すほど、手段をめぐる落差が際立つ。ワシントンは外交的決着を優先し、テヘランとの取引を進める姿勢を見せている。一方イスラエルは、過去に経験した2015年のJCPOA(イラン核合意)が期限付きの棚上げに終わったとみており、同じ轍を踏む合意には強烈な拒絶反応を持っている。米イスラエル核交渉の文脈で言えば、同盟国間の調整はいまが正念場といえる。
「目標一致」と言うほど、手段のずれが目立つ構図
歴史的に見ると、米イスラエルの核政策をめぐる亀裂は今回が初めてではない。オバマ政権時代のJCPOAでもイスラエルは強硬に反対し、当時のネタニヤフ首相は米議会で演説してまで阻止を訴えた。トランプ政権はそのJCPOAを一度破棄した当事者だが、今度は自らがイランとの新たな枠組みを模索している。同盟の立場が逆転したように見える場面でもある。
イスラエル国内では、合意が濃縮能力を温存するなら「核閾値の引き下げにもならない」という批判が出ている。ネタニヤフ政権としては、合意に反対すれば米国との関係を傷つけ、沈黙すれば有権者への説明が立たない——板挟みの状況が続いている。
この先どうなる
米イラン協議の焦点は今後、ウラン濃縮の上限と査察の厳格さに集約されていくとみられる。イスラエルが求めるミサイル制限の条項が枠組みに盛り込まれるかどうかが、合意の行方を左右する分岐点になりそうだった。トランプ政権が「合意ありき」の姿勢を強めるほど、ネタニヤフ政権の選択肢は狭まる。中東の核不拡散体制がどこまで実効性を持てるか、次の協議ラウンドで相当程度が見えてくるんじゃないか。