トルコ共和人民党CHPの本部が、日曜日の朝に催涙ガスで染まった。機動隊がバリケードを突破して建物内に押し入ったのは、裁判所が党首オゼルの選出を「無効」と宣告してから、わずか数日後のことだった。これだけの動きが週末にまとめて起きたのは、偶然じゃないと思う。
オゼル解任から突入まで、72時間で何が起きたか
木曜日、トルコの控訴裁判所は現党首オゼルの選出を無効と裁定。後任に指名されたのは、2023年大統領選でエルドアンに敗れた77歳の党重鎮クルチダルオールだった。クルチダルオール側の代理人は警察に「必要な手続き」の実施を要請し、アンカラ市知事がそれを受けて警察に「裁判所の決定を執行せよ」と指示したとされる。
本部前ではCHP党員が即席のバリケードを組んで入口を封鎖。ホースで水をかける抵抗も映像に残っているが、機動隊はそれを押し切った。オゼル自身は建物を後にする際、集まった支持者にこう告げた。
「彼らは我々を根こそぎ引き抜き、追い出そうとした」
その後オゼルはトルコ国民議会に向かって行進し、議会内で抵抗を続ける姿勢を鮮明にした。
エルドアン権威主義が「司法」を使う理由
ここで引っかかるのは、今回の手順だ。警察が動いたのは「裁判所の命令」があったから、という建て付けになっている。直接の政治介入ではなく、司法の執行という形を取ることで、国際社会への説明コストを下げているように見える。
エルドアン政権の22年間、こうした司法・警察・行政の連携は何度も目撃されてきた。2016年クーデター未遂後の大量粛清、クルド系政党HDP幹部の逮捕、主要メディアの買収と編集権介入——パターンは似ている。ただ今回が異なるのは、ターゲットがトルコ最大の世俗主義野党だという点だ。エルドアン権威主義の矛先がここまで明確に主流野党に向いたのは、近年でも珍しいケースといえる。
オゼル解任の口実となった「選出無効」の根拠も気になるところで、党内規約違反があったと裁判所は判断したらしい。ただ、その審理がこのタイミングで結審し、執行まで電光石火だったのは、単なる偶然と片付けるには無理がある。
この先どうなる
CHP側は議会での抵抗路線を選び、オゼルは失職に応じない構えを崩していない。クルチダルオール新体制が党本部の実権を握ったとしても、党員の多数派がオゼル支持なら内部分裂が長期化する可能性が高い。欧州議会やEUはトルコの民主主義後退にすでに懸念を示しており、今回の強制突入が新たな外交摩擦のタネになりそうだ。トルコのNATO加盟国としての立場を考えると、欧米がどこまで批判の声を上げるかも注目点になってくる。最大野党が司法と警察で封じられた国の選挙が、今後どんな意味を持つのか——そこが、この話の一番重い部分だと思う。