出生地主義をめぐる攻防が、また一段と熱くなってきた。トランプ前大統領が保守系ラジオホストのマーク・レビンの言葉を引用し、アメリカで生まれた子どもに自動的に市民権を与えるバースライト・シチズンシップを「この国にとっての自殺行為」と切り捨てたのだ。発言はTruth Socialへの投稿で、トランプ氏自身も同意を明確にしている。
憲法修正第14条という「壁」の厚さ
この制度の根拠は、南北戦争後の1868年に成立した合衆国憲法修正第14条。条文には「合衆国内で生まれた者はすべて市民権を有する」と明記されている。つまり、行政命令だけで変えようとしても、複数の連邦裁判所がすでに違憲判断を下しているのが現状だ。
廃止・制限には大きく二つのルートがある。ひとつは憲法改正、もうひとつは最高裁が判例を覆す判断を下すこと。前者は上下両院で3分の2以上の賛成、さらに4分の3以上の州の批准が必要で、現在の議会構成では現実的ではない。後者についても、最高裁が明示的に踏み込んだ判断をまだ出していないため、「判例変更待ち」という不確かな状態が続いている。
「出生地主義はこの国にとって自殺行為だ!」――Donald J. Trump(マーク・レビンを引用)
トランプ陣営はこの制度を「不法移民の磁石」と表現し、越境を促すインセンティブになっていると主張する。だが研究者の間では、出産目的の越境がどこまで制度的恩恵を目当てにしたものかについて、数字が一致していない。
年間15万人、無国籍リスクという現実
廃止された場合に影響を受ける出生数は、年間約15万人とも試算されている。両親が非合法滞在者または短期滞在ビザ保持者の場合、子どもがアメリカ市民権を得られなければ、親の出身国でも市民権が認められないケースがある。いわゆる「無国籍」リスクだ。
国際的には、出生地主義を採用する国はアメリカ以外にもカナダやメキシコなど主にアメリカ大陸に集中しており、欧州諸国はすでに血統主義や要件付き付与に移行済み。ただし国連の無国籍削減条約などの枠組みとの摩擦が生じる可能性も指摘されており、単純に「廃止すれば終わり」という話でもないらしい。
この先どうなる
最大の焦点は最高裁の出方だ。トランプ政権が1月に署名した行政命令をめぐる訴訟が複数進行中で、いずれかが最高裁まで上がれば、憲法修正第14条の解釈を問う歴史的な判断が下される可能性がある。仮に「出生地主義は憲法上の要請ではない」という判断が出れば、議会での立法だけで制限できる道が開く。逆に最高裁が従来解釈を維持すれば、行政命令ルートは完全に閉ざされる。どちらに転んでも、アメリカの移民政策の地形図が塗り替わる一手になる。2025年中に判断が示されるかどうか、訴訟の進行が注目される。