ECB利上げが「不可避かもしれない」――欧州中央銀行の内部からこの言葉が出てきたのは、利下げ期待が広がっていたタイミングだった。発言の主はギリシャ代表理事のヤニス・ストゥルナラス。市場に走った緊張は、単なる一理事のつぶやきで済む話ではない。

ストゥルナラス発言、ラガルド路線と何が食い違うのか

ECBは今年3月、2025年のユーロ圏消費者物価の年間上昇率を平均2.6%と予測していた。ところがBloombergの報道によれば、この数字は6月の理事会で上方修正される公算が大きいらしい。インフレが予想より粘着質だと判明すれば、利下げへのシフトを示唆してきたラガルド総裁のシナリオは根底から揺らぐことになる。

「ECBの利上げは信頼性維持のために不可避かもしれない」――ストゥルナラス(Bloomberg報道より)

ストゥルナラスはもともとECB内でも「ハト派寄り」と見られていた人物。その彼が利上げの可能性に言及したってことは、インフレデータの悪化が相当の水準に達しているとも読める。理事会内の温度感が変わってきた、と市場が反応したのは自然な流れだった。

再利上げになれば、南欧から家計まで直撃する現実

もしECBが再び利上げに踏み切った場合、影響は数字の話では収まらない。ユーロ圏の住宅ローン金利は変動型が多く、政策金利の動きがそのまま月々の返済額に直撃する仕組みになっている国が少なくない。とりわけギリシャ、イタリア、スペインといった南欧諸国では財政余力が限られており、金利上昇が国債費用を押し上げれば、歳出削減か増税かという圧力が再浮上してくる。

企業サイドも同じで、2022〜2023年の急速利上げ局面でいったん冷え込んだ設備投資意欲が、ようやく回復軌道に乗りかけていたところだった。ここで再利上げとなれば、回復のタイミングをもう一度後ろ倒しにするリスクがある。欧州市民にとっての「金利地獄」は、まだ終幕を迎えていないかもしれない。

この先どうなる

注目は6月のECB理事会。インフレ予測が引き上げられれば、ストゥルナラス発言は「先走り」ではなく「先読み」だったことになる。ラガルド総裁がどこまで利下げ路線を維持できるか、それとも軌道修正を迫られるか。ECB利上げへの再転換が現実味を帯びれば、ユーロ相場・欧州株・国債利回りの三方向に同時に波紋が広がる展開も十分ありえる。欧州インフレの行方は、理事会の議事録よりも6月に公表される物価統計が先に答えを出すだろう。