中国EV対抗策の検討が、ホワイトハウスの内側で静かに始まっていた。Reutersが複数の内部関係者の証言をもとに報じたところによると、バイデン政権は貿易制裁措置と国内製造支援を組み合わせた複数の選択肢をテーブルに乗せているらしい。きっかけとなったのは一つの数字だった——2023年、中国BYDの世界販売台数がテスラを初めて上回った。
BYDがテスラを抜いた日、何が変わったか
「価格の安さ」で片付けるのは少し違う、と調べていて思った。BYDが国際市場に投入するEVの価格は、同等スペックの欧米車と比べて半値以下になることもある。その裏には中国政府による手厚い補助金があって、製造コストを実態より大幅に圧縮しているとされる。
欧州ではすでに問題になっていた。EU欧州委員会は独自の補助金調査に乗り出し、追加関税の可能性を探っている。ここに米国の動きが重なれば、対中EV包囲網は大西洋をまたいだ多国間の枠組みに発展するかもしれない。BYDとテスラの競争は、気づいたら国家間の戦いに姿を変えていた。
「事情に詳しい複数の関係者によると、ホワイトハウスは貿易措置の発動や国内製造業の強化を含む、中国のEV市場支配に対抗するための選択肢を検討している」(Reuters、2024年5月)
米国内では、インフレ抑制法(IRA)による国内EV製造支援がすでに動いている。ただ、補助金だけでは中国の価格競争力に追いつかないという見方もある。だから「貿易制裁」という言葉が出てくる。関税の壁を積み上げることで、価格優位を物理的に削ぐという発想だ。
関税だけでは終わらない、サプライチェーン再編の波
米中貿易制裁EVという文脈で見ると、問題はもう一段深い。EV用バッテリーに不可欠なリチウムやコバルトの精製で、中国は世界シェアの大半を握っている。関税で車両の輸入を止めても、部品や素材のレベルで依存が残れば、包囲網には穴が開いたままだ。
ここが引っかかった点でもある。米国が本当に「産業安全保障上の脅威」として動くなら、関税はスタートラインに過ぎない。鉱物資源の調達先を多様化し、国内バッテリー生産を育て、同盟国と連携して中国依存を薄める——そこまで踏み込んでこそ、対抗策と呼べる話になってくる。
この先どうなる
2024年5月時点の報道では、まだ「選択肢の検討段階」とされていた。ただ、大統領選を控えたバイデン政権にとって、製造業州の雇用を守るという政治的な圧力は無視できない。追加関税の発動は現実味を帯びていて、実際にその後、中国製EVへの関税引き上げが決定される流れへとつながっていく。EUとの連携が深まれば、BYDがテスラを抜いた「あの年」は、EV地政学の転換点として後から語られることになるんじゃないか。