イラン核協議の第5回が終わって、米国側が漏らした言葉は「僅かな前進」——それだけだった。劇的な合意でも決裂でもない、この宙ぶらりんな表現こそが今の交渉の温度を正直に映しているらしい。
濃縮度60%を「超えている」なら、話は変わってくる
核兵器開発の目安として国際社会が警戒ラインに置くのがウラン濃縮度60%。ところが複数の分析では、イランはすでにその水準を超え、兵器級とされる90%近くに達している可能性があるという。
これが事実なら、交渉のテーブルに乗っている「核開発の制限」という議題は、すでに手遅れになりかけている段階で話し合われていることになる。数字が持つ重みが、外交の言葉より先に状況を語っていた。
「米国はイランとの核協議において『僅かな前進』があったと述べたが、中東で戦争が再開されるかどうかについては依然として不確実性が残っている」(AP通信)
トランプ政権は「最大圧力」路線を続けながら交渉の窓を完全に閉めてはいない。この両立は戦術的に見えるが、イラン側からすれば「制裁を続けながら交渉を求める」矛盾として映っているはずで、そこに溝がある。
ホルムズ海峡という「人質」が市場を縛る
地図を見ると分かるが、ホルムズ海峡は幅が最も狭い部分で約50キロしかない。そこを世界の原油輸送量の約20%が毎日通過している。
交渉が完全に決裂してイランが海峡封鎖に動けば、エネルギー市場への影響は即日で出る。原油価格の急騰、物流コストの上昇——それが世界経済に波及するまでのラグは短い。市場が今の交渉を固唾を飲んで見ているのは、単なる地政学的関心じゃなく、財布への直撃を警戒しているからだ。
一方のハメネイ師は「核の権利」を手放す気配を見せていない。ウラン濃縮の継続はイランにとって国家主権の象徴として内政上の意味も持っており、ここを譲れば国内の強硬派が黙っていない構図もある。
この先どうなる
次の焦点は第6回協議が設定されるかどうかと、その前にIAEA(国際原子力機関)の査察受け入れをめぐる水面下の駆け引きがどう動くかだろう。「僅かな前進」が積み重なって歴史的合意に化けた例は過去にもある——2015年のJCPOA(イラン核合意)がそれだった。ただあの時と違うのは、イランの濃縮度が格段に上がっている点で、交渉の余地は狭まっている。楽観も悲観もしにくい、というのが正直なところじゃないか。