米イラン核協議が「最終段階に入った」という観測だけで、5月22日の外為市場は動いた。ドルが失速し、原油が反発し、新興国通貨が軒並み買い戻される——合意文書の一行も公開されていないのに、だ。

ドル安と原油安、どちらに賭けるのか

今回の動きで面白いのは、市場が矛盾するシナリオを同時に値付けしている点だった。

ドル安は輸入物価を押し上げ、インフレ再燃のリスクを運んでくる。一方、中東の地政学的緊張が本当に和らげば、エネルギーコストは下がるはずで、それはインフレ圧力を打ち消す方向に働く。つまり同じニュースが「インフレ的」でも「ディスインフレ的」でもある、という奇妙な状態だ。

リスク選好が上がったのは分かりやすい。中東リスクが下がれば、投資家は安全資産のドルを手放して新興国通貨や商品に資金を移す——これは教科書通りの動きといえる。ただ原油が「地政学リスク後退にもかかわらず上昇した」という点は少し引っかかった。供給懸念の緩和より、リスクオン全体の波が先に来た、ということらしい。

「Dollar Stalls as Hope for US-Iran Peace Boosts Risk Sentiment」(Bloomberg, Anya Andrianova, May 22)

Bloombergの報道が示すのは、「希望(hope)」という言葉だった。確定した事実ではなく、あくまで期待が相場を動かしたという話だ。

トランプ政権が「最終段階」と呼ぶ協議、中身は非公開

ここが最も注意が必要なところだった。トランプ政権が「協議は最終段階にある」と発信しているが、交渉の具体的な内容は依然として非公開のままだ。

過去の前例を振り返れば、2015年のJCPOA(イラン核合意)は最終段階から合意まで数週間を要し、その間に何度も破談寸前まで揺れた。今回も同様のリスクがある。市場が「合意確定」と「交渉決裂」の両方を同時に消化しようとしている現状は、ニュース一本で相場が大きく振れる環境だということでもある。

ドル失速・リスク選好の高まりは「イランリスク解消」への先走りである可能性が高く、合意内容が想定を下回れば逆回転もあり得る。新興国通貨に乗った投資家は、その点を織り込んでいるだろうか。

この先どうなる

焦点は協議内容の開示タイミングだ。合意の骨格が公表されれば、市場は「期待買い→事実売り」の典型的な動きに入るかもしれない。一方、交渉が再び膠着すれば、ドルの買い戻しと原油の急落が同時に起きるシナリオも排除できない。

米イラン核協議の行方は、外為・原油・新興国市場という三つの市場を同時に揺さぶる数少ないイベントだ。合意文書の一行目が出た瞬間、今度こそ相場は本気で動くんじゃないかと思っている。