欧州特使を誰にするかより前に、もっと根本的な問題が浮かび上がった。プーチンに何を要求するか、欧州の加盟国同士でまだ合意できていないのだ。ニューヨーク・タイムズが報じたこの亀裂、外から見ると些細な手続き論に映るかもしれないが、交渉の現場ではそうはいかない。

停戦ライン・制裁・安全保障——3つの火種

欧州内部で割れているのは、大きく三つの論点らしい。一つは停戦ラインの設定。現在の前線を事実上の境界と認めるのか、それとも2022年2月以前の領土を基準とするのか。ここだけでも東欧と西欧のあいだには温度差がある。

二つ目はウクライナへの安全保障の枠組み。NATO加盟を前提に置くのか、それとも多国間保証の別ルートを探るのか。三つ目がロシアへの制裁解除の条件で、これが最も揉めているとされる。経済的打撃を優先したい国と、早期の関係正常化に傾く国では、譲れる線がまったく違う。

「これらすべてで加盟国の足並みは揃っていない」という現状で特使を送っても、交渉相手に読まれた瞬間、分断を突かれる。プーチン側にとってはむしろ歓迎の展開じゃないか、という見方も出ている。

ミンスク2015——同じ轍を踏むのか

ここで思い出されるのが2015年のミンスク合意だ。フランスとドイツが主導した停戦枠組みだったが、欧州全体の統一した圧力にはなり切れず、ロシアは合意の解釈を自国に有利な形でじわじわと書き換えていった。

「欧州はロシアとのウクライナ和平交渉に向けた特使の任命を検討している。しかしまず、何を要求すべきかを決める必要があると多くが警告している。」(ニューヨーク・タイムズ)

あのとき欧州が統一できなかった最大の理由は、エネルギー依存の深さだった。今回はそこからは抜け出しているが、代わりに「ウクライナ疲れ」と呼ばれる世論の変化が西欧諸国の足を引っ張っている。構図は変わっても、内部の亀裂という問題は繰り返している。

ウクライナ和平交渉の主戦場は交渉テーブルだけじゃない。特使が誰かが決まる前に、欧州内部の協議そのものがすでに一つの戦場になっているわけで、そこでの敗北は後の交渉に直接響いてくる。

この先どうなる

直近の焦点は、欧州が統一した交渉方針をまとめられるかどうか。現実的には、加盟国全員の完全合意より「最大公約数的な共通文書」を先に作り、特使に一定の裁量を持たせる形が模索されそうだ。ただ、その裁量の幅が広すぎると、今度は特使の発言がロシアに「欧州の本音」として利用されるリスクもある。プーチン交渉戦略の読みに対して、欧州がどこまで先手を打てるか。特使任命の発表より、その前の内部調整の結果のほうが、はるかに重要な一手になりそうだ。