エボラ出血熱が南スーダンの街に近づいている——コンゴとウガンダですでに死者139人を出したウイルスが、今度は「アコボ」という名の、ほぼ無防備な街へと向かっているらしい。ニューヨーク・タイムズが現地から伝えた報告を読んで、まず引っかかったのが「ワクチン供給は9ヶ月先」という一行だった。
アコボとはどんな街か——飢餓・紛争・医療崩壊の三重苦
南スーダン東部に位置するアコボは、慢性的な食糧不足と武装勢力間の衝突が何年にもわたって続いている地域だ。もともと医療インフラ自体がほとんど存在せず、感染症が発生したとしても隔離病棟どころか、診断できる設備すら整っていない。住民の体力と免疫力が削られた状態で感染爆発が起きれば、致死率50%というエボラの数字がそのまま街に直撃することになる。
国境を越える人の流れは今も続いている。コンゴ東部からウガンダ、そして南スーダンへと続く移動ルートは、難民や農業労働者、交易商人が日常的に往来する生活路でもある。ウイルスにとって、国境線は存在しないに等しい。
「飢餓と紛争が住民の頭を占めるアコボで、感染爆発が起きれば壊滅的な結果をもたらしかねない」——The New York Times
この一文が現地の状況をよく表している。エボラへの恐怖より今日の食料と身の安全を優先せざるを得ない住民に、感染予防の行動を求めるのはそもそも無理がある話だ。
コンゴ流行が教えた「封じ込め失敗」の条件、アコボは全部当てはまる
2018〜2020年にコンゴ東部で起きたエボラ流行は、最終的に2200人以上の死者を出した。当時の分析で繰り返し指摘されたのが「紛争地域での封じ込めの困難さ」だった。感染者の追跡調査ができない、接触者に隔離を求めても安全が保証されない、そもそも保健当局が現地に入れない——アコボ周辺はまさにその条件が重なっている。
アコボ周辺での感染リスクが高まっている背景として、ワクチン供給の遅れも見逃せない。コンゴとウガンダへの対応に資源が集中している中、周辺国への予防的供給は後回しになっているのが実情だ。9ヶ月という数字は、感染が広がるには十分すぎる時間でもある。
コンゴ・ウガンダ・エボラ拡散という連鎖がすでに起きている中、東アフリカの人の流れが止まらない以上、次の「飛び火先」が出てきても不思議じゃない。アコボはその候補として、今一番名前が挙がっている場所ということになる。
この先どうなる
WHO(世界保健機関)は現時点でコンゴとウガンダへの対応を最優先としており、南スーダンへの支援拡大がいつ実現するかは見通せていない。ワクチン供給の前倒しや国際的な緊急医療チームの派遣が動かない限り、アコボは「感染が入ってから対応する」後手の展開になりかねない。過去の事例を見ると、脆弱な地域でエボラが定着してしまうと、封じ込めに数年単位の時間と資源がかかる。国際社会がアコボに目を向けるタイミングが、今なのかどうか——そこが今後の分かれ目になりそうだ。