ラウル・カストロ起訴が正式に確認されたのは米東部時間の水曜日。約30年、封印されてきた民間機撃墜事件がついて法廷に引き出された格好で、キューバとの関係は一気に臨界点へ近づいた感がある。

1996年撃墜事件とは何だったのか――ブラザーズ・トゥ・ザ・レスキューの4人

事件が起きたのは1996年。キューバ系アメリカ人グループ「ブラザーズ・トゥ・ザ・レスキュー」が運航する民間機2機が、キューバ軍によって撃墜された。搭乗していた4人が死亡し、うち3人は米国籍を持っていた。

米司法省の訴状はカストロを含む6名を名指しにしている。キューバのディアス=カネル大統領はただちに「法的根拠のない政治的策略」と反論したが、当のカストロは現時点でキューバ国内にいるとみられ、身柄拘束の見通しは立っていない。

「水曜日に公表された米国の訴状は、カストロを含む6名が1966年にキューバ系アメリカ人グループ『ブラザーズ・トゥ・ザ・レスキュー』に属する2機を撃墜し、米国人3人を含む4人を死亡させたとして告発している。」(BBC報道より)

30年近く法的決着を見なかった理由のひとつは外交的複雑性だろう。オバマ政権期には米キューバ関係の雪解けもあった。それがトランプ政権の強硬路線と重なって、今このタイミングで訴状が動いたとみるのが自然じゃないかと思う。

キューバ燃料封鎖で1日20時間停電――市民が見えていない現実

起訴の発表と並行して、米国はキューバへの燃料封鎖を事実上フルスロットルに引き上げた。島内では現在、1日最大20時間の停電が続いている。多くの市民がインターネットにも接続できず、起訴のニュース自体を知らない人も少なくないらしい。

ルビオ国務長官はキューバを「国家安全保障の脅威」と断言し、「平和的解決の可能性は低い」とも述べた。トランプ政権が非公式に掲げる要求は三本柱——経済の対外開放、ロシアと中国の情報機関のキューバ撤退、そして政権交代だ。

燃料も電力も断たれた状態で、市民生活への打撃はすでに深刻なレベル。封鎖が長引けば、人道上の批判が国際社会から高まる可能性もある。米国がそのリスクを織り込んだうえで動いているとすれば、相当な本気度と受け取れる。

この先どうなる

カストロの身柄がキューバ国内にある限り、刑事訴追は象徴的な意味合いが強い。ただ、訴状の存在は外交ツールとして機能する——資産凍結、第三国経由の圧力、あるいは将来的な引き渡し交渉の布石になりうる。

キューバ政府が要求を飲む可能性は現状ほぼゼロに近く、ルビオ長官自身も「平和的解決は期待薄」と明言している。焦点は、燃料封鎖が長期化した際に市民の不満がどう爆発するか、そしてロシアと中国がキューバ支援にどこまで踏み込むかだろう。米中ロが絡む地政学的な綱引きが、カリブ海の小さな島を舞台に静かに激化している。