革命防衛隊(IRGC)がイランのGDPの20〜30%規模の企業群を傘下に収め、軍事・経済・情報の三領域を一体的に掌握している——ニューヨーク・タイムズがそう報じたとき、「イランは神政国家だ」という常識がひっくり返った気がした。選挙も議会も、実は飾りに近いのかもしれない。

核交渉の席で動いているのは外交官じゃない

表向きの交渉担当者が何を話しても、テーブルの裏にIRGCの意向が張りついている——そういう構図らしい。核合意をめぐる交渉が何度も壁にぶつかってきた背景には、外交官の判断を上書きできる存在がいた、ということになる。

IRGCはもともと1979年のイスラム革命を守るために創設された組織だった。それが40年以上かけて、石油関連企業、建設会社、通信インフラにまで触手を伸ばし、今では「国家の中の国家」と呼ばれるほどの経済主体になっている。制裁で外資が逃げるほど、その空白を埋めるのもIRGCだったりする。

「イランの意思決定は、イスラム革命防衛隊に連なる少数の男たちによって導かれている」——ニューヨーク・タイムズ

この一文が重い。「少数の男たち」という表現は、民主的なプロセスとは無縁の閉じた回路を示唆している。ハメネイ最高指導者の権威を支えてきたのも、結局はこの回路だった。

ハメネイ後継、85歳の時計が動いている

ハメネイは1989年から最高指導者の座にある。85歳。後継者は公式には決まっていない。イラン権力構造の慣例では聖職者が後継者になるはずだが、IRGCが実権を握った今の体制では、その「慣例」が通用するかどうか怪しくなってきた。

名前が取り沙汰されるのは、ハメネイの次男モジュタバーや、IRGC系の強硬派人脈と近い宗教指導者たち。ただ、誰が表に立つかより、IRGCが誰を「選ぶか」の方が実態に近い話かもしれない。銃と資本を握った組織が後継体制を事実上承認するという流れは、革命防衛隊の権力がいかに深く根を張っているかを映し出している。

中東安全保障の観点から言えば、次の最高指導者がIRGC寄りの強硬派色を強めれば、ヒズボラやフーシへの支援継続はむしろ加速する可能性がある。サウジアラビアとの関係改善が始まったこのタイミングで、その動きが逆回転しないとも限らない。

この先どうなる

ハメネイが存命の間は、IRGCも表立った動きを抑えるはず。ただ、後継指名が現実の課題になった瞬間、水面下の権力闘争が一気に表面化する可能性がある。イランの核交渉の行方も、次の最高指導者が誰になるかと切り離せない問題になってきた。「聖職者の国」から「軍の国」へ——そのシフトが静かに、しかし着実に進んでいるとすれば、中東の地図は想定より早く塗り替わるかもしれない。