豊田章男とトランプが、まさかこういう形でつながるとは思っていなかった。トランプ前大統領はTruth Socialへの投稿で、トヨタの豊田章男会長が星条旗・バーベキュー・フォードF-150・NASCARといったアメリカの象徴をフル活用し、MAGA支持層へのチャーム攻勢を展開したと紹介した。それを「全面的な傾倒」と称する形で発信したのだから、これは単なる社交辞令の話じゃない。
F-150とNASCARで動いた、500万台の算盤
日本の自動車メーカーが米国向けに輸出する台数は年間約500万台。そこに追加関税が課されれば、各社の収益への打撃は計り知れない水準になる。トランプ政権が関税強化を公言するなか、豊田氏がとった行動は「アメリカ人が好きなものを前面に出す」という、ある意味でシンプルな政治的ジェスチャーだった。
日米自動車関税の問題は、交渉テーブルだけで決まるとは限らない。特にトランプ流の政治では、「誰が俺の側に立っているか」という感情的なロジックが政策判断に割り込んでくる場面がある。F-150はフォードの看板商品であり、NASCARはアメリカ南部の文化そのもの。それをあえて選んでみせるのは、「トヨタはアメリカの敵じゃない」というメッセージをトランプ支持層に直接届けようとする動きとも読める。
豊田章男氏が、星条旗・バーベキュー・F-150トラック・NASCARスタイルのチャーム攻勢で、完全にMAGAへの傾倒を示した――Donald J. Trump(Truth Social)
トランプ自身がこれをポジティブな文脈で発信したという点は、効果があったことを示唆している。少なくとも、関係悪化を防ぐという意味では、最低限の着地はできたかもしれない。
「日本車はアメリカの仕事を奪う」論を崩せるか
トランプ支持層の間には、日本車・韓国車がアメリカの雇用を侵食しているという根強い見方がある。これはレトリックの話ではなく、ラストベルトの自動車産業衰退と重なる歴史的な感情でもある。豊田氏のMAGAチャーム外交は、この感情に直接働きかけようとする試みと考えると、かなりリスクを取った選択だったと言える。
一方で、批判的な見方もある。競合他社であるフォードの象徴であるF-150を持ち出すのは、アメリカ市場への敬意として受け取られる反面、「日本の経営者がトランプに媚びている」と見られる可能性もある。国内外の株主や取引先がこのパフォーマンスをどう評価するかは、まだ見えていない部分も多い。
MAGAチャーム外交という手法は、今後の日米自動車関税交渉においてトヨタに有利に働くのか、それとも逆効果になるのか。ここが引っかかった点だった。
この先どうなる
トランプ政権の関税政策は、就任後の百日以内に具体的な数字として出てくる可能性が高い。その局面で、豊田氏の今回のパフォーマンスが「下地を作った」と評価されるか、「空振りだった」と振り返られるかが決まる。トヨタはすでに米国内に複数の生産拠点を持ち、現地雇用への貢献を強調してきた企業でもある。政治的なジェスチャーと実績の両輪で関税圧力をかわせるかどうか、これはトヨタ一社の問題ではなく、日本の自動車産業全体が注視している話でもある。次の動きは、トランプが関税の具体的な数字を出す瞬間に現れるだろう。