ホルムズ海峡封鎖——その言葉が、いま世界の金融市場で最も恐れられるシナリオとして浮上してきた。Bloombergが2025年5月21日に報じた分析では、イランをめぐる武力衝突が拡大した場合、アジアの通貨と債券市場が「極端な弱気局面」に陥るリスクが現実の選択肢として語られ始めている。

原油輸出量2割が通る「咽喉部」が詰まると何が起きるか

ホルムズ海峡は、世界の原油輸出量の約2割が毎日通過する輸送路だ。ここが機能不全に陥れば、エネルギー輸入への依存度が突出して高い日本・韓国・インドへの打撃は直接的で速い。

円、ウォン、ルピーの三通貨が同時に急落するシナリオは、単なる「原油高による経常収支の悪化」だけを意味しない。市場が本当に警戒しているのは、地政学的緊張が臨界点を超えた瞬間に資本がアジアから一斉に引き上げる「フライト・トゥ・セーフティ」の連鎖らしい。通貨が売られると同時に、リスク回避で国債まで売られる——その二重の嵐が同時進行するシナリオこそ、市場関係者の間で最もダメージが大きいと見られている。

「イランとの戦争が、アジア通貨・債券に極端な弱気シナリオをもたらしている」(Bloomberg、2025年5月21日)

通貨と債券が同時に売られる事態は、過去のアジア通貨危機でも起きた。1997年の経験を持つ市場参加者には、そのフラッシュバックを呼び起こすには十分な材料が揃ってきているんじゃないか、という声も出始めている。

イラン武力衝突リスクが「価格」に折り込まれていない問題

もう一つ気になるのは、現時点でこのリスクが市場にほとんど折り込まれていないという点だ。イラン有事をめぐる地政学プレミアムは、原油先物にもアジア通貨のオプション市場にも、まだ限定的にしか反映されていない。

これは「市場が楽観視している」というより、「価格に織り込む根拠となる情報が極めて不確実」という状況に近い。有事が現実化した瞬間に値動きが急加速する、いわゆる「テールリスク型の相場」になっているわけで、平時の指標を見ていると油断しやすい構図になっている。

アジア通貨危機的な連鎖への警戒と、ホルムズ海峡封鎖による供給ショックが重なれば、新興国から先進国まで幅広い資本移動が起きる可能性がある。特にインドは経常赤字国でありながら原油輸入への依存度が高く、ルピーへのダブルパンチになりうる構図だ。

この先どうなる

当面の焦点は、イスラエルとイランの直接衝突がどこまでエスカレートするかと、ホルムズ海峡の通航がどの程度制約を受けるかの二点に絞られてくる。完全封鎖でなくとも、タンカーへの攻撃や保険料の急騰だけで輸送コストが跳ね上がり、市場心理を大きく揺さぶる展開は十分ありえる。

アジア各国の中央銀行が為替介入に動ける余地は、外貨準備の水準によってかなり差がある。韓国・インドは比較的厚い備えがある一方、介入余力の乏しい新興国通貨は早い段階で売り圧力にさらされるかもしれない。Bloombergが「極端な弱気シナリオ」と表現した以上、それはあくまで尾部リスクの話ではある。ただ、尾部リスクが現実になるとき、市場はいつもそれを「想定外」と呼ぶ。