ホルムズ海峡封鎖——その言葉が「仮定の話」から「現在進行形のリスク」に変わりつつある。イランが革命防衛隊による船舶臨検を制度化した直後、超大型タンカー3隻が海峡通過を強行したと報じられた。幅わずか48キロのこの水道を、世界の原油輸送量の約20%、LNGの約30%が毎日通過している。そこで今、通行支配をめぐる緊張が静かに、しかし確実に高まっている。
イラン革命防衛隊「臨検制度化」で何が変わったか
これまでイランによる船舶拿捕は「突発的な威嚇行為」として処理されることが多かった。ところが今回は違う。臨検権限を制度として整備したという点が引っかかった。制度化とは、個別の判断ではなく組織として繰り返せる仕組みを作ったということ。つまり次の臨検は「もしかしたら」じゃなく、「いつか必ず」に変わった。
超大型タンカー(VLCC)は満載状態で原油を200万バレル以上運ぶ。3隻が強行通過したという事実は、船会社側が「止まることのリスク」を「通過するリスク」より高く見積もったことを示している。それくらい、臨検を受けることへの警戒感が高まっているらしい。
「イランが管理を強化した後、超大型タンカー3隻がホルムズ海峡の通過を試みた」——Financial Times
この一文には、「試みた」という言葉が使われている。通過「した」ではなく「試みた」。結果がどうなったかは未確認部分も残っており、続報を追う必要がある。
原油価格と地政学リスク——日本が無視できない3つの数字
日本の原油輸入の約9割は中東産。そのほぼすべてがホルムズ海峡を通る。韓国・インドも同様の構造を抱えており、この3か国は世界でも特に「ホルムズ依存度の高い国」に分類される。
原油価格は地政学リスクを先食いする性質がある。実際に封鎖が起きなくても、「起きるかもしれない」という空気だけで先物市場は動く。2019年にサウジアラビアの石油施設がドローン攻撃を受けたとき、原油価格は一夜で約15%跳ね上がった。あの瞬間と似た火種が、今ホルムズ海峡に燻っている。
1970年代のオイルショック時、石油禁輸は世界経済を約1年にわたって混乱させた。あの頃より現代の経済はサプライチェーンが複雑に絡み合っており、ホルムズが完全に閉じた場合の打撃規模はあの比ではないとの試算もある。「対岸の火事」という言葉が使いにくい状況、ってことだ。
この先どうなる
イランにとってホルムズは、経済制裁への最大の反撃カードでもある。米国との核交渉が行き詰まれば、臨検強化は次の段階——通行妨害や拿捕の増加——へとエスカレートしうる。一方で、完全封鎖はイラン自身の輸出にも影響するため、「脅しとして使うが踏み切らない」という綱渡りが続く可能性も高い。
市場が注目するのは、米海軍第5艦隊の動向と、日本・韓国・インドが個別に対イラン外交をどう動かすかだろう。エネルギー備蓄の積み増しや代替ルートの確保を、どの国が先に動くか——その判断の早さが、次の石油価格の天井を決めるかもしれない。タンカー3隻の強行通過は、その競争の号砲だったのかもしれない。