「シベリアの力2号」パイプライン交渉は、また合意しなかった。プーチン大統領が北京を離れたのは、40回目の首脳会談を終えた直後のことだった。公式声明は「戦略的協力」「相互信頼」で飾られていたが、肝心の契約書にはサインがなかった。

プーチンが「手ぶら」で帰った理由

年間500億立方メートルの輸送能力を持つシベリアの力2号は、欧州への輸出ルートを事実上失ったロシアにとって、次の生命線として位置づけてきた案件だ。ウクライナ侵攻以降、ロシア産ガスを締め出した欧州市場の穴を、中国経由で埋めたい——その意図は明らかだった。

だが北京は動かなかった。報じられているのは「価格面での折り合いがつかなかった」という理由。ロシアが提示した価格水準を、中国側が受け入れなかったとされる。

「習近平・プーチン首脳会談で、両者のパートナーシップには限界があることが明らかになった。プーチンは『シベリアの力2』パイプライン合意に署名することなく北京を離れた。」(BBC News)

表向きの「蜜月」演出とは裏腹に、交渉テーブルでの力関係はかなり非対称だったらしい。エネルギーを売りたい側と、いくらでも別の買い手を探せる側では、焦り方がまるで違う。

中国が「急がない」のには、ちゃんとした計算がある

習近平・プーチン首脳会談で見えてきたのは、中露エネルギー外交における北京の余裕だった。中国はロシア産LNGをすでに割安で調達しており、追加のパイプライン交渉でも「足元を見る」立場にある。

供給側の選択肢が乏しいのはモスクワのほうで、北京にとってシベリアの力2号はあくまで「あれば便利」な案件に過ぎない。価格が折り合わなければ待てばいい、という構えが透けて見える。

一方で首脳会談の場では、米国のゴールデンドーム構想への批判や「責任ある核政策」を巡る共同声明が並んだ。対米という文脈で連帯を見せながら、エネルギー交渉では駆け引きをやめない——そのギャップが今回の会談をよく表している。

この先どうなる

シベリアの力2号の交渉が完全に消えたわけではない。ロシアには時間的な圧力があり、欧州市場の回復見通しも立たないなかで、いずれは中国の条件に近い形で妥結せざるを得なくなる可能性が高いとみられている。

問題は「いつ、どの価格で」だ。中露エネルギー外交の次のヤマ場は、年内にも来るかもしれない。ただ、少なくとも今回ばかりは、プーチンが先に折れることはなかった。次の会談が41回目になるころ、どちらが先に動くか——そこに注目しておきたい。