エストニア領空侵犯が、NATO史上初の「加盟国領土上での実戦撃墜」という前例のない事態に発展した。火曜日、ルーマニアのF-16がエストニア上空でドローンに向けてミサイルを発射。残骸はエストニア中部の湿地帯に落下し、民間への被害はなかったものの、問題の波紋は今も広がり続けている。
ロシア電子妨害がバルト三国に仕掛けた「空の罠」
撃墜されたドローンは、ウクライナがロシア国内の軍事目標に向けて発射したものとみられる。ただ問題は、なぜそれがエストニア領空まで飛んできたか、だ。
エストニア国防相ハノ・ペフクルが指摘したのが、ロシアによる電子妨害(ジャミング)。GPSや誘導システムを狂わせてドローンの針路を意図的にずらす手法で、今回だけの話ではない。今月上旬にはラトビアの空の燃料貯蔵施設にウクライナのドローンが着弾。3月にもエストニアとラトビアで同様の越境が報告されていた。
ウクライナは今回の件について、ロシアが「正当な軍事目標」に向けた自国ドローンを意図的に誘導したと断定。エストニアおよびバルト三国の友好国に謝罪する声明を出した。
「エストニア国防相ハノ・ペフクルは、ルーマニアのF-16がミサイルを発射し、ドローンの残骸が火曜日にエストニア中部の湿地帯に落下したと述べた。」(BBC News)
ロシアはこの件について今のところ沈黙を保っている。ただ従来から、バルト三国がウクライナに「空の回廊」を提供しているとの非難を続けており、今回の撃墜事案を外交的に利用しようとする動きが今後出てきてもおかしくない。
ラトビア首相辞任から1週間、連鎖する政治的コスト
この問題が厄介なのは、軍事的リスクだけじゃなく、政治的コストも現実に発生している点だ。先週、ラトビアのエヴィカ・シリナ首相が、ウクライナのドローン越境問題をめぐる政治的混乱の末に辞任した。NATO加盟国の首相が「他国のドローンが自国を通過した」という問題で職を辞す——これは異例中の異例。
バルト三国はウクライナへの強固な支持で知られるが、その支持が「ロシアへの空路提供」という形で国内世論を揺さぶるリスクを抱えることになった。モスクワは当然そこを突いてくる。NATOの東側防衛ラインにくさびを打ち込むための、電子妨害とドローン越境の組み合わせは、意図的に設計されたものである可能性が高い。
この先どうなる
NATOドローン撃墜という「初の実戦例」が生まれた以上、同盟内での対処ルールの整備が急務になってくる。どの段階で迎撃を判断するか、越境ドローンの識別体制をどう強化するか——これらはまだ標準化されていない。
ウクライナのドローン攻撃の頻度はロシア国境付近の燃料施設などを狙ってさらに増している。ロシアの電子妨害技術が洗練されるほど、越境リスクも高まる。エストニア領空侵犯が「偶発的な事故」として処理されるうちはいいが、次に残骸が住宅地に落ちたとき、あるいは迎撃に失敗したとき、NATOの結束がどこまで維持できるか、そこが本当の試されどころになる。