ラウル・カストロ起訴——94歳の元キューバ大統領に、29年前の殺人罪が突きつけられた。米司法省が2025年、1996年の民間機撃墜事件を巡り、元国家評議会議長ラウル・カストロを殺人共謀罪など複数の罪状で正式起訴した。被害者の名前は今も残っている。アルマンド・アレハンドレ・ジュニア、カルロス・アルベルト・コスタ、マリオ・マヌエル・デ・ラ・ペーニャ、パブロ・モラレス——4人の命が、キューバ軍のミサイルで奪われた。

1996年2月24日、何が起きたのか

舞台はキューバとフロリダの間の海域。キューバ系米国人の支援団体「ブラザーズ・トゥ・ザ・レスキュー」が飛ばしていた民間機2機を、キューバ空軍の戦闘機が撃墜した。同団体はキューバから脱出しようとする亡命者を海上で救助する活動で知られており、撃墜当時、当局はこれを挑発行為と見なしたとされる。

ブラザーズ・トゥ・ザ・レスキュー撃墜事件は当時、国際社会から激しい非難を浴びた。ラウル・カストロはキューバ革命軍の最高司令官として、命令系統の頂点にいた人物だ。事件後、米国は経済制裁を強化したが、刑事訴追まで至るには四半世紀以上の歳月を要した。

2003年の封印を、トランプ政権が開けた

今回の起訴状は実は新しくない。原型は2003年にすでに作成されていた。それが長らく封じられ、今年のトランプ政権下で「復活・拡張」された形だ。なぜ今なのか。

代行司法長官トッド・ブランシュはマイアミのフリーダム・タワー——キューバ移民にとって象徴的な場所——で声明を読み上げた。

「The United States, and President Trump, does not, and will not, forget its citizens.(米国は、そしてトランプ大統領は、自国民を忘れることも、忘れることもない)」

場所の選び方からして、政治的なメッセージは明らかだ。米アメリカン大学のラテンアメリカ政治専門家ウィリアム・レオグランドは「戦略はキューバ政府が交渉の席で折れるまで、段階的に圧力を高めること」と分析している。トランプ対キューバ政策の文脈で読めば、この起訴は外交的な砲弾とも言える。一方、キューバのミゲル・ディアス=カネル大統領は「法的根拠のない政治的策動だ」と一蹴した。

この先どうなる

94歳のラウル・カストロがキューバから米国に移送される可能性は、現実的にはほぼゼロに近い。両国間には犯罪人引渡し条約が存在せず、キューバ政府が応じる理由もない。それでもこの起訴がじわじわ効いてくる可能性はある。国際社会での象徴的なダメージ、キューバ指導部への心理的圧力、そしてフロリダのキューバ系米国人コミュニティへの政治的アピール——。実際の逮捕よりも、「起訴した」という事実そのものが武器になる構造だ。トランプ政権がキューバへの締め付けをどこまでエスカレートさせるかが、次の焦点になりそう。