三角強制という言葉を初めて見たとき、正直ピンとこなかった。だが中身を追ううちに、「これは確かに米国が一番嫌がる手だ」と思わざるを得なかった。イランが描く戦略の骨格はシンプルで恐ろしい。米軍と正面から撃ち合うのではなく、サウジアラビアやUAEの石油インフラを叩きながら、同時にホルムズ海峡を封鎖する。世界の原油輸送量のおよそ20%が通る水路が止まれば、米国は「同盟国を見捨てた」と言われたくないから軍を動かすしかない。その瞬間、イランの思惑通りの泥沼に引き込まれる。
ホルムズ海峡「20%」が止まると何が起きるか
ホルムズ海峡は幅わずか33キロの最狭部を持つ海峡で、日本・韓国・インドに向かうタンカーの大動脈でもある。ここが封鎖されると、代替ルートは限られる。サウジアラビアのパイプライン経由が一部あるが、処理能力には上限があり、全量をカバーできるわけじゃない。つまりホルムズ封鎖は原油価格の急騰だけでなく、日本を含むアジア諸国のエネルギー調達そのものを揺るがす事態になりうる。ニューヨーク・タイムズがこの問題を「米国の長期的脆弱性」と表現したのは、単なる軍事論じゃなく経済的な急所を指していたわけだ。
「軍事力で劣勢に立つイランは、湾岸諸国への攻撃とホルムズ海峡封鎖という『三角強制』を用い、米国の長期的な脆弱性を突いた。」(The New York Times)
イラン非対称戦略の厄介な点は、「誰が攻撃したか」をあえて曖昧にできるところにある。ホルミズ海峡を直接封鎖するのはイラン海軍でも、湾岸諸国のインフラを叩くのはフーシ派や親イラン民兵組織経由というシナリオが現実的で、その場合イランは「われわれではない」と言い張れる。この代理勢力の活用こそが、三角強制を「教科書的な非対称戦争」たらしめている理由らしい。
イランがこの手を使える背景に、米国内の「戦争疲れ」がある
アフガニスタン、イラク、シリア。米国が中東で消耗してきた20年間は、「大規模地上戦への国民的アレルギー」を生み出した。イランはそこを読んでいる。米軍が空爆で応じることはできても、地上部隊を大量投入する政治的コストは今の米国には極めて高い。つまりホルムズ封鎖が起きても、米国が取れる選択肢は限られる。経済制裁を積み増すか、ピンポイントの軍事行動か。どちらも「封鎖を解く」という目的には直結しない可能性がある。こうした非対称戦争の構図は、今後の地域紛争における新たな標準モデルになるかもしれないとNYTは指摘している。
この先どうなる
現時点でホルムズ海峡が実際に封鎖されたわけではないが、イランがこの「三角強制」を外交カードとして持ち続けている限り、湾岸の緊張は当面解けないだろう。注目すべきは、米国がこの脆弱性を自覚した上でどんな対抗策を出してくるかだ。防衛態勢の湾岸諸国への移転、日本や韓国との備蓄協調、あるいはイランへの経済的な「出口」の提示など、軍事以外の手が試されることになりそう。そしてもう一つ気になるのは中国の動向で、イラン産石油の主要買い手である中国がこの局面でどう動くか次第で、制裁の効き目がまるで変わってくる。静かに見えて、かなりきわどいゲームが続いている。