ホルムズ海峡LNG封鎖リスクを、市場は本当にわかっていないのかもしれない。豪州最大のLNG生産会社ウッドサイドのCEOが2026年5月20日、ブルームバーグを通じて発した言葉は短くて重かった。「世界はイランをめぐる軍事的緊張がLNG供給に与える打撃を著しく過小評価している」。エネルギー市場が核合意崩壊の懸念をじわじわ織り込み始める一方で、物理的な供給途絶というシナリオへの備えはほぼ手つかずのままらしい。

世界のLNG貿易20%が通る「1本の水道管」

問題のホルムズ海峡は、幅が最も狭い部分で約33キロメートル。カタール産LNGを中心に、世界のLNG貿易量の約20%がこの狭隘な水路を毎日のように通過している。日本・韓国・欧州という3つの主要需要地への供給ラインが、事実上この1点に集約されているかたちだ。

イランが封鎖や機雷敷設、タンカーへの嫌がらせに踏み切れば、代替ルートへの切り替えには時間がかかる。米国産LNGやオーストラリア産LNGの増産で穴を埋めようにも、液化設備の稼働には数カ月単位のリードタイムが必要で、即座の補填は難しい。ウッドサイドCEOが警鐘を鳴らしたのは、まさにこのギャップのことじゃないかと読める。

「世界はイラン戦争がLNG供給に与える影響を過小評価している」――ウッドサイドCEO(Bloomberg、2026年5月20日)

エネルギー安全保障の観点から言えば、欧州はロシア産ガス依存を脱した直後に次のリスクと向き合う局面に入りつつある。日本・韓国はすでに調達先の多角化を進めているが、ホルムズ経由の比率が高いカタールLNGへの依存度は依然として大きい。ウッドサイド CEO イラン警告が指摘するのは、単なる地政学リスクの「追加」ではなく、既存の代替戦略そのものへの疑問符とも言えそうだ。

原油と違う、LNGショックの怖さ

原油と違い、LNGは超低温で液化・輸送するインフラに強く依存している。タンカーを止めればそれで終わりではなく、受入基地・再ガス化設備・パイプラインが一体で機能して初めて消費者の手元にガスが届く。供給途絶が起きた場合、電力・都市ガス・工業用熱源が連鎖的に影響を受ける構造になっている。

エネルギー市場がイラン核合意の崩壊懸念を先取りしているとしても、物理インフラのボトルネックは価格変動だけでは解消されない。在庫を積み増す時間的余裕が失われた段階で緊張が高まれば、物価への波及は2022年のガス危機を上回るシナリオもあり得る。エネルギー安全保障 供給途絶というキーワードが、また現実の問題として浮上してきたということだ。

この先どうなる

米国とイランの核協議の行方が当面の焦点になる。交渉が決裂し軍事的緊張が高まれば、ホルムズ海峡の通航保険料が急騰し、タンカー運賃の上昇を通じてLNGスポット価格に跳ね返る展開が考えられる。一方、協議が前進すれば市場のリスクプレミアムは剥落するだろう。ウッドサイドのような生産側の大手が公の場で警告を出してきたこと自体、業界内ではすでに相当なレベルでリスクが意識されているサインとも読める。次の物価危機の導火線になるかどうか、6月以降の協議の動向から目が離せない。