インドネシア資源ナショナリズムが、また一段ギアを上げた。世界の石炭輸出の最大シェアを握り、パーム油でも約60%を供給するこの国が今度は、両コモディティの輸出管理を一手に担う新たな国家機関を設置する構想を進めているとBloombergが伝えた。長年、民間業者が担ってきた輸出申告プロセスに国家が直接介入する——その意味は小さくない。
脱税1兆円超? 過少申告が横行してきた輸出の闇
調べてみると、今回の動きの出発点は「資源の国有化」よりも「税収の取りこぼし」にあるらしい。これまでインドネシアの石炭・パーム油輸出は民間業者による申告ベースで動いてきた。その隙間に、輸出額の過少申告や売上資金の海外口座への移転が常態化していたとされる。
新設される国家機関は、こうした抜け穴を物理的に塞ぐ役割を担う見通しだ。輸出申告から代金回収まで国が目を光らせる仕組みになれば、これまで国庫に入らなかった資金が還流することになる。財政に余裕がないプラボウォ政権にとって、増税なき歳入増という一石二鳥の狙いが見える。
Indonesia Plans Tighter State Control Over Commodity Exports — Bloomberg(2025年5月19日)
石炭輸出規制の観点で見れば、インドネシアはすでに2022年に一時輸出禁止を実施して日本や韓国の電力会社を震え上がらせた前例がある。あのとき世界が学んだのは「インドネシアは本当にやる」という事実だった。
ニッケル禁輸から続く一本の線——プラボウォ政権の資源戦略
パーム油サプライチェーンへの影響も見逃せない。食品・バイオ燃料・洗剤など川下の産業は広大で、日本も食用油や洗剤原料の調達においてインドネシア産に依存している。国家管理機関の設置によって輸出手続きが煩雑化したり、割当制度が強化されたりすれば、調達コストの上昇や供給の不安定化につながる可能性がある。
一方、プラボウォ政権のここまでの動きを振り返ると、資源政策には一貫した文脈がある。ニッケルの輸出禁止でバッテリーサプライチェーンの上流を国内に引き込み、ボーキサイトでも同様の措置を講じた。今回の石炭・パーム油への介入は、その延長線上にあるとみて間違いない。「採掘して輸出するだけ」のモデルから脱却し、付加価値と税収を国内に取り込む——その路線が着実に強化されている。
この先どうなる
国家機関の設置が正式に決まれば、輸出業者の手続きコスト増大と透明性向上が同時に起きることになる。短期的には石炭・パーム油の輸出フローに一定の混乱が生じるリスクがあり、日本・欧州・中国などの輸入国は代替調達先の確保を迫られる場面も出てくるだろう。
ただ、インドネシアの供給シェアは代替が効きにくい水準にある。石炭輸出規制が本格稼働すれば、エネルギー価格への影響は避けられないし、パーム油でも同様だ。プラボウォ政権がどこまでの権限を新機関に与えるか、輸出割当や価格設定への介入まで踏み込むかどうか——その詳細が明らかになるにつれ、市場の反応も変わってくるはず。続報を待ちたい。