OECDコーマン事務総長が、パリのG7会合の場でブルームバーグのカメラの前に立ち、はっきり言い切った。イラン戦争は世界経済に「成長への下方圧力とインフレへの上方圧力」を同時にかけている、と。二つの矢が同時に刺さる、というやつだ。
エネルギーが上がり、投資が凍る——二重圧力のメカニズム
なぜ同時に起きるのか。中東からのエネルギー供給が不安定になれば、原油・天然ガスの価格が上がり、輸送コストから食品価格まで幅広く物価を押し上げる。これがインフレ側の圧力。一方で、地政学リスクが高まると企業は設備投資を先送りし、消費者も財布のひもを締める。景気が冷える方向に引っ張られる——これが成長側への下押し。どちらか一方なら中央銀行は手が打てるが、両方が重なると話が変わってくる。
「イラン戦争は成長への下方圧力とインフレへの上方圧力を同時にかけている」——OECD事務総長 マティアス・コーマン(ブルームバーグ取材、2026年5月19日)
スタグフレーションという言葉が久しぶりに重みを持ち始めた気がする。インフレを抑えるには利上げが必要だが、景気が悪化している局面で利上げすると企業倒産や失業が加速する。逆に景気を支えるために利下げすれば、インフレに油を注ぐことになる。FRBもECBも、動くに動けない展開になりかねない。
コーマン発言が「公式の場」で出た意味
OECDは38カ国が加盟する政策調整機関で、IMFと並んで先進国の経済政策に大きな影響力を持つ。その事務総長が、G7という多国間の舞台でこの発言をしたという点は見ておく価値がある。非公式な警戒ではなく、政策当局者全員が同じ認識を共有すべきだという、ある種のシグナルとして受け取れる。イラン戦争 インフレというリスクが、もはや「想定外シナリオ」ではなく「現在進行形のベースライン」になったということらしい。
実際、2022年のウクライナ侵攻後にヨーロッパが経験したエネルギー危機と似た構図が、今度は中東発で広がる可能性がある。ただ、ホルムズ海峡は世界の石油輸送量の約2割が通過する。ウクライナのときより供給インパクトが大きくなるシナリオも現実的だ。スタグフレーション 中東という組み合わせが、2026年の世界経済を語るキーワードになってきた。
この先どうなる
直近で注目されるのは、OECDが6月に公表予定の世界経済見通しの改訂版だろう。コーマン発言を受けて、成長率予測が下方修正される可能性は十分ある。各国中央銀行の利下げ判断にも影が差す。FRBは年内の利下げをほぼ織り込んでいた市場コンセンサスが揺らぎかねない局面で、今後の発言や議事録には例年以上に注意が必要になってくる。中東の停戦交渉の動向と金融政策——この二つが絡み合いながら、夏場の市場を揺らし続けそうだ。