プーチン訪中のタイミングが、偶然でないことは数字を見れば分かる。ウクライナ侵攻後、ロシアの欧州向け天然ガス輸出は侵攻前比で約8割減。その穴を埋めるべく対中エネルギー輸出は急拡大し、いまやロシアにとって中国は全石油輸出の約3割を引き受ける最大顧客となっている。
今回の北京訪問で浮上したのが、石油・天然ガスの長期供給枠組みと人民元決済の拡大だ。習近平との会談でこの二本柱が議題に上ったとされる。特に人民元決済の広がりは、ロシア側にとって対米制裁の迂回路という意味合いがあり、中国にとってはドルに依存しない決済圏の実績づくりという側面がある。利害が一致しているから話が早い。
ペルシャ湾の混乱が「背中を押した」経緯
今回の密着を後押ししたのが、ペルシャ湾岸情勢の緊迫化だった。イランをめぐる軍事的緊張が高まり、ホルムズ海峡を通じた石油供給に不確実性が生じている。世界の石油タンカー輸送の約2割が通過する同海峡が不安定化すれば、中国のエネルギー調達計画も揺らぐ。
「ペルシャ湾岸の混乱が石油・ガス供給を寸断するなか、ロシアは中国とのエネルギー関係深化を模索している」(The New York Times)
中国にとって、中東リスクが高まるほどパイプラインで直結するロシアからの陸上輸送の価値が上がる。プーチン側もそれを分かっていて、今回の訪中でカードとして使ったと見られている。戦争と制裁で弱体化したはずのロシアが、中東の混乱を「渡りに船」とした格好だ。
人民元決済が広がると何が変わるか
露中エネルギー協力が人民元建てで固定化されると、影響は両国間にとどまらない。石油取引のドル建て慣行、いわゆる「ペトロダラー」体制に小さくない穴が開く可能性がある。ロシア産油が人民元で決済され、イラン産油も中国が人民元で買い付けるルートが拡大すれば、ドルを介さない資源取引の実績が積み上がっていく。
もっとも、人民元の国際的な流動性はドルに遠く及ばず、「ペトロダラーの終わり」というには大げさすぎる段階だ。ただ、亀裂が走り始めているのは確かで、ペルシャ湾石油供給の混乱がそのペースを早めているのは見ておいて損はない。
この先どうなる
焦点は、今回の会談でどこまで具体的な数字が決まったかだ。「長期枠組み」と報じられても、価格や数量の詳細が固まらなければ絵に描いた餅になりかねない。中国は交渉巧者で、ロシアの「売り先がない」立場を利用して割安な価格を引き出そうとする傾向がある。プーチンが北京で何を「譲った」かが、今後のリーク情報で明らかになってくるだろう。
イラン情勢次第では、露中エネルギー協力の加速が一段と鮮明になる可能性が高い。ユーラシアの資源同盟が「有事の代替ルート」として機能し始めたとき、国際エネルギー市場の地図はじわりと書き直される。その作業は、静かに、すでに始まっているらしい。
