ロシア産石油制裁緩和――イランを締め上げようとした網が、別の場所で破れた。フィナンシャル・タイムズが報じた内容はシンプルだが、その含意は重い。トランプ政権がイラン産原油の全面封鎖を推し進めた結果、供給不足で原油価格が跳ね上がる懸念が生まれ、その火消しのためにロシアへの制裁を事実上緩める判断を下したというものだ。
イラン封鎖の代償がロシアへの「抜け穴」になった
トランプ政権の「最大限の圧力」路線は、イランの石油収入を干上がらせることを目的としている。だが世界の原油市場はゼロサムに近い。イラン産が消えれば、その分どこかで埋め合わせが必要になる。結果として浮上したのが、ウクライナ侵攻以来G7が制裁で縛ってきたロシア産原油だった。
今回の緩和措置により、インドや中国向けのロシア産原油取引が一部容認される形になるとされる。つまりイラン封鎖の抜け穴を、ロシアが埋めるという構図だ。西側が2年以上かけて積み上げた対ロ圧力が、米国自身の手で部分的に骨抜きにされた格好といえる。
「米国はイランへの最大限の圧力作戦が引き起こしかねないエネルギー価格の急騰を抑制しようと、ロシア産石油に対する制裁を緩和した」(フィナンシャル・タイムズ)
ここで引っかかるのは、タイミングだ。ウクライナ停戦交渉が水面下で動いているとされる今、ロシアへの経済的なレバレッジをわざわざ手放す判断は、欧州の同盟国からみれば不可解に映るはずだ。
ガソリン価格は米政権の「急所」、有権者が動く前に動いた
米国内政治の文脈では、話はもっとわかりやすい。ガソリン価格の上昇は、支持率に直結する数少ない変数のひとつだ。イラン封鎖を強化して原油が1バレル100ドルに近づけば、スタンドの看板価格が跳ね上がり、有権者の怒りはホワイトハウスへ向かう。トランプ政権がそのリスクを避けたかったのは想像に難くない。
イラン原油封鎖とロシア産石油制裁緩和、この二つの政策を同時に抱えることは、地政学的には矛盾でも、選挙政治的には合理的な計算に見える。ただし、その計算が長続きするかは別の話だ。欧州からの批判、ウクライナへの影響、そして中国・インドが「容認された取引」をどこまで拡大解釈するか――変数は積み上がっている。
この先どうなる
最も注目すべきは欧州の反応だろう。G7として共同歩調をとってきた対ロ制裁に米国が独自の例外を設けた場合、制裁の「国際的な枠組み」自体が揺らぎかねない。インドや中国はこの緩和をテコに、さらなる取引拡大を交渉カードに使う可能性がある。エネルギー価格を抑えるための短期的な判断が、対ロ制裁という長期戦略に与える傷は、じわじわと広がっていくかもしれない。ガソリン代を守るために、別の代償を払い始めた――そういう局面に入ってきた。