NATO領空侵犯が、ついに「撃墜」という形で完結した。APの報道によれば、ルーマニア空軍の戦闘機がエストニア上空でウクライナのドローンと見られる機体を撃墜。迷走した無人機がバルト海沿岸の同盟国領空に入り込み、別の同盟国の戦闘機に落とされるという、NATOが最も避けたかったシナリオが現実に起きた。
エストニア上空で何が起きたか――ルーマニア空軍「撃墜」の経緯
エストニアはロシアと国境を接するNATO最前線の加盟国だ。その領空に、ウクライナ発とみられるドローンが流入した。エストニア自身の防空アセットではなく、NATOのバルト海空域警戒任務(Baltic Air Policing)に就いていたルーマニア空軍機が対処し、撃墜に至ったとされる。
ここで引っかかったのは「誰が撃つか」より「なぜそこにいたか」という点だった。ウクライナのドローンはロシアへの攻撃用として運用されているはずで、それが数百キロ離れたエストニアの上空に現れた経緯は、現時点で公式に説明されていない。機体の制御喪失なのか、それとも別の何かなのか、まだわからない。
「ルーマニアの戦闘機が、NATO加盟国であるエストニアの上空で、ウクライナのドローンと見られる機体を撃墜した」(AP報道・日本語訳)
2023年にはポーランド領内にウクライナのドローンが落下して農民が死亡した事案もあった。あのときは撃墜ではなく「落下」だったが、今回はNATOの戦闘機が能動的に撃ち落とした。格段にレベルが上がったインシデントと言っていい。
第5条は「仲間が撃った」ケースを想定していない
北大西洋条約第5条は「加盟国への攻撃は全加盟国への攻撃とみなす」と定める。ただし想定されてきたのは、外部の敵対勢力による攻撃だ。今回のように「支援中の第三国のドローンが迷い込んで、別の加盟国の戦闘機に落とされた」という事態は、条文の射程を大きく外れている。
ルーマニアはNATO加盟国として正当な対領空侵犯措置を取ったわけだが、それがウクライナのアセットを破壊したという事実は残る。ウクライナへの武器・資金供与を続ける欧州各国にとって、これは外交的にも微妙な後味を残す。
エストニアのドローン撃墜事案が示すのは、ドローン戦争が「制御可能な領域」で完結しなくなっているという現実だろう。GPS妨害、電波ジャック、単純な機体故障――どれが原因だったとしても、小型無人機が国境を越える障壁はほぼゼロに近い。ルーマニア空軍の対応は適切だったかもしれないが、次の迷走ドローンが首都上空に現れない保証はどこにもない。
この先どうなる
NATOとしては早急に「迷走ドローン対処プロトコル」の整備を迫られる。現行の交戦規定はロシアやベラルーシを念頭に置いており、「友軍起源の機体」が領空に入った場合の手続きは曖昧なままだ。エストニア、ラトビア、リトアニアの三カ国は既にロシア国境沿いに防空網の強化を求めており、今回の事案はその要求に政治的な重みを加えることになりそうだ。
ウクライナ側も黙ってはいられない。自国のドローンが同盟支持国の上空に迷い込んだとなれば、西側の世論や議会への説明責任が生じる。次の局面は「撃墜後の外交調整」にある――そこが今、最も動きやすい戦場かもしれない。