イランの報復戦術が、想定を超えた段階に入りつつあるらしい。ニューヨーク・タイムズが2025年5月18日付で報じたところによれば、イラン当局者は米・イスラエルによる追加攻撃への対抗手段として、ホルムズ海峡に加え「第2の海峡」の封鎖を真剣に検討しているという。その第2の海峡とは、紅海の出口にあたるバブ・エル・マンデブ海峡のことだ。
ホルムズだけじゃなかった――バブ・エル・マンデブ封鎖で世界原油の3割が止まる
ホルムズ海峡は中東産原油の輸送ルートとして世界的に知られているが、バブ・エル・マンデブ海峡はアフリカと中東の間に位置し、スエズ運河を経由するヨーロッパ向け航路の要衝でもある。一方が止まっただけでも市場は震え上がるのに、両方が同時に危機に陥れば世界の原油海上輸送量の約3割が一度に経路を失う計算になる。これは「可能性の話」ではなく、イランが選択肢として机上に乗せ始めたという段階の話だ。
そもそもイランがバブ・エル・マンデブに影響力を行使できる背景には、イエメンのフーシ派との連携がある。フーシ派はすでに2024年から紅海で商船への攻撃を繰り返しており、イランが代理勢力を通じた封鎖戦術に転換することは技術的にも現実的な話、というのが専門家の見方だ。
「イラン当局者は新たな戦術を採用する可能性があり、その中には周辺国への攻撃激化や、第2の海峡の閉鎖を試みることが含まれる」(ニューヨーク・タイムズ、2025年5月18日)
周辺国への攻撃激化という選択肢も同時に挙げられている点が気になった。具体的にはイラク・シリアを経由した代理勢力ネットワークの強化が加速する可能性があり、これはエネルギーインフラだけでなく地上での紛争リスクも引き上げる。
日本への直撃ルート――エネルギー安全保障の急所をどう見るか
バブ・エル・マンデブ海峡封鎖とホルムズ海峡エネルギー安全保障の問題は、日本にとって他人事じゃない。日本の原油輸入の約9割は中東からで、その大部分がホルムズ海峡を通過する。さらにバブ・エル・マンデブが封鎖されれば迂回ルートの確保が難しくなり、スポット価格の急騰→輸送コスト上昇→食料・日用品への転嫁という連鎖が起きる。2022年のロシア・ウクライナ戦争後の物価高騰を思い起こせば、そのスピード感はイメージしやすいはずだ。
エネルギー市場がすでに神経質になっている中で、「封鎖の検討が報道された」という事実だけで先物が動く局面もある。今回のNYT報道がそのトリガーになるかどうか、週明けの市場反応は見ておくべきだろう。
この先どうなる
米・イスラエルが軍事攻撃を踏み切るか否かで、イランの「報復メニュー」の実行タイミングが変わる。現時点では封鎖はあくまで「選択肢の一つ」として浮上している段階だが、攻撃が実行された瞬間にそのハードルは一気に下がる。フーシ派はすでに紅海で実績を持つ戦力として機能しており、イランが本気で動けばバブ・エル・マンデブ海峡封鎖は「絵空事」ではなくなる。日本政府と石油元売り各社がどんな危機シナリオを想定しているか、近く何らかの動きが出てくる可能性はある。静かに、でも注意深く見ておきたい局面だ。