シベリアの力2——この名前が再び動き始めた。プーチン大統領が北京を訪問し、習近平国家主席と直接会談に臨む。長年、価格条件を巡って平行線をたどってきたガスパイプライン交渉が、ここにきて急に動き出した背景には、イランをめぐる戦争という想定外の変数がある。
500億立方メートルの重み——ロシアに「NO」と言える余裕はあるか
シベリアの力2が稼働すれば、ロシアは年間最大500億立方メートルの天然ガスを中国へ送り込める。欧州市場をほぼ失った今、この数字はロシアのエネルギー産業にとって単なる商談の規模じゃない。財政を支える柱の一本だ。
欧米の制裁によって西側のエネルギー市場から締め出されたロシアは、代替の売り先を探し続けてきた。中国はその最大候補でありながら、交渉テーブルでは徹底的に値を叩いてきた経緯がある。ロシア産エネルギーへの需要が高まれば高まるほど、北京は「待てる」立場を維持できる。
「イランをめぐる戦争がロシアと中国のエネルギー関係を深める好機をもたらしている」(Bloomberg, 2026年5月19日)
この一文が今回の会談の核心を示している。イラン情勢の緊迫化でエネルギー市場に不確実性が高まれば、中国としても安定した供給源を早期に確保したい動機が生まれる。ロシア制裁回避の観点でも、長期固定契約は西側の価格変動リスクを遮断できる。習近平にとって今は、条件を引き出しながら合意できるタイミングといえる。
習近平が「急がない」ふりをやめる日
これまでの交渉を振り返ると、中国側は一貫して慌てていなかった。ロシアが制裁で追い詰められるほど、北京の交渉カードは増えていく——そういう構図だった。
ただ、イラン情勢という新しい変数は中国にも圧力をかけうる。中東のエネルギー供給が不安定化すれば、北からの安定供給の価値は相対的に上がる。中露エネルギー同盟が形成されるとすれば、その引き金はロシアの弱さではなく、中東の混乱かもしれない。
価格水準についての具体的な数字はまだ表に出ていないが、「ロシア側が譲歩する形で合意に近づいている」という見方が市場では出始めている。モスクワが長期安値でも合意を選ぶのか、それとも条件闘争を続けるのか——プーチンが北京で何を語るかで、答えが透けてくるはずだ。
この先どうなる
今回の会談で正式合意に至るかは、まだ見えていない。ただ、交渉の「空気感」は変わってきた。イラン情勢が長期化すれば、エネルギー市場の地図そのものが書き直される可能性もある。シベリアの力2が動き出した時、ロシアのガスが中国のインフラに組み込まれる——それは欧州がかつてロシアに依存したのと、構造的には同じ絵になる。買い手が変わっただけで、依存の方向が反転したとも読める。合意の中身よりも、合意後に何が変わるかのほうが、じつは長く効いてくるんじゃないかと思っている。