ベザレル・スモトリッチが「報復」の矛先に選んだのは、ICCの検察官ではなく、ヨルダン川西岸に暮らすパレスチナ民間人だった。ニューヨーク・タイムズが5月19日に報じた内容は、そういうことらしい。
スモトリッチが動いた背景――ICC逮捕状請求との連鎖
国際刑事裁判所(ICC)の検察官がスモトリッチ財務相本人への逮捕状を請求した、とされる。ICCは現時点で請求の有無を「確認も否定もしていない」という状況で、詳細は流動的だ。
それでも本人は動いた。強制退去の宣言は、自身への法的手続きへの対抗措置と位置づけられている。調べてみると、これはスモトリッチ氏が初めて取るような路線ではなく、もともとヨルダン川西岸への入植拡大を強く推進してきた人物だとわかる。今回の宣言は、その延長線上にある。
「強硬派のベザレル・スモトリッチ財務相は、国際刑事裁判所の検察官が自身の逮捕状を請求したことへの報復として、立ち退きを命じると述べた。」(ニューヨーク・タイムズ)
ここで引っかかるのは、「自分が訴追されそうだから、無関係の住民を追い出す」という論理の飛躍だ。ICC逮捕状という個人への法的圧力に対して、パレスチナ人集落の住民を強制退去させることで応じる――これは国際人道法が明確に禁じる集団的懲罰の考え方に重なってくる。
ヨルダン川西岸はすでに臨界点――強制退去が意味するもの
ヨルダン川西岸では、イスラエル入植地の拡張をめぐる緊張がここ数年で急上昇している。入植者によるパレスチナ農地への侵入、家屋破壊、暴力事件の件数は2023年以降に跳ね上がっており、今回の宣言はその文脈の中に落ちてくる。
さらにガザでは現在も200万人超が人道危機下にある。ガザとヨルダン川西岸は地理的に切り離されているが、国際社会からすれば「パレスチナ人への圧力が同時に複数の場所で強まっている」という見え方になる。欧米諸国がイスラエルへの批判的な論調を強めつつある中で、この宣言はさらに外交的な摩擦を呼びそうだ。
ICCへの対抗として民間人を動員する――その手段の選び方が、今後の国際的な批判の焦点になるんじゃないかと思う。
この先どうなる
まずICCが逮捕状請求の事実を公式に認めるかどうかが最初の分岐点。認めた場合、スモトリッチ氏が国際刑事司法手続きの対象になることが確定し、イスラエル政府全体の外交的立場に影響が出てくる。
強制退去の宣言が実行に移されれば、国連や欧州連合、アメリカからの制裁論議が一気に現実味を帯びる可能性がある。一方でイスラエル国内では、スモトリッチ氏の支持基盤である宗教シオニズム派からは逆に支持を集めるという、逆説的な動きも予想される。
ガザ停戦交渉が断続的に続く中で、ヨルダン川西岸の動向が新たな火種になるかどうか。次の48時間でICCと各国政府の反応が出そろえば、もう少し輪郭が見えてくるはずだ。
