ホルムズ海峡で何かが起きれば、世界の原油輸送量の約20%が止まる。その「もしも」に対して、機関投資家たちが前例のない規模の原油オプション取引を執行した——ブルームバーグが5月19日に報じた。
「巨大な賭け」が動いた日、ホルムズ海峡は何%封鎖されていたか
オプション取引とは、将来の特定価格で原油を売買できる「権利」を事前に買っておく仕組みだ。急騰にも急落にも対応できる防衛線として機能する。今回の取引規模が「前例のない」と報じられたのは、それだけプロの目線で先行きの不確実性が高いと判断されているからだろう。
イランとの武力衝突リスクが再び市場の視野に入ってきた背景には、中東情勢の急変がある。イスラエルとの緊張、核協議の停滞、そして米軍の動向——どれか一つが引き金を引けば、ホルムズ海峡は一気に「咽喉部」から「戦場」に変わりうる。
「イラン戦争への緊張を背景に、巨大なオプション賭けが綱渡り状態の石油市場を揺さぶっている」(Bloomberg、2026年5月19日)
イラン戦争リスクが原油価格に直結するのは、代替ルートの問題でもある。スエズ運河経由やアフリカ南端迂回はコストと時間が跳ね上がる。日本を含むアジア向けのタンカーは現実的にホルムズ海峡を通るしかなく、封鎖が現実となれば調達コストの急騰は避けられない。
原油オプション取引の急騰が示す「サプライチェーン全体への導火線」
原油価格が動くと、エネルギーコストだけでは終わらない。航空燃料、肥料、プラスチック——石油を原料とする産業全体がドミノ倒しのように反応する。2022年のウクライナ侵攻後に起きたインフレ再加速を覚えている人も多いはずだ。あのときと構造は似ている。
今回の原油オプション取引の急騰は、市場が「価格が大きく動く」ことへの確信を深めつつあることを示している。上がるか下がるかは賭けているが、「動かない」という選択肢を機関投資家たちはほぼ消した、ということになる。
日本の輸入物価への影響も無視できない。円安基調が続く中で原油高が重なれば、電気代・ガス代・食料品価格が一斉に上振れするシナリオは十分にリアルだ。
この先どうなる
焦点は二つ。一つは米国とイランの外交交渉が6月以降も継続できるかどうか。もう一つは、イスラエルの軍事行動がどこまで拡大するかだ。どちらかが崩れれば、今回のオプション取引が「当たり」になる局面が来る。市場は既にその可能性を織り込み始めており、原油の「静けさ」が逆に不気味に見えてきた。夏前に何かが動く——そう見ているトレーダーは少なくないらしい。