バラカ原子力発電所の近郊に、ドローンが着弾した——APがそう報じたのは、米イラン核協議が事実上の暗礁に乗り上げてから間もない時間帯のことだった。犯行声明はまだ出ていない。UAE政府は公式の被害を否定しているが、施設の安全評価には数日かかるとされており、「否定」と「安全確認済み」はイコールじゃない。

バラカに何が起きたのか——稼働中の原子炉を抱える施設でのドローン着弾

バラカ原子力発電所は、中東で初めて商業運転に入った原子力施設だ。韓国の技術支援を受けてUAEが建設し、現在複数の原子炉が稼働中。アブダビ首長国の電力需要の相当部分をここが支えている。

今回着弾が報じられたのは「施設近郊」。直撃ではないとされているが、引っかかるのはそのタイミングだ。米国とイランがほぼ同時に「核協議が決裂すれば敵対行為を再開する用意がある」というシグナルを発した直後に、この地域でドローンが飛んだ。偶然と片付けるには出来すぎている。

「UAE・バラカ原子力発電所の近郊にドローンが着弾した。米国とイランの双方が、核協議が決裂した場合に敵対行為を再開する用意があるとシグナルを発した。」(AP通信報道より)

犯行主体の特定は現時点でできていないが、過去にフーシ派やイラン系武装勢力がUAEのインフラを標的にしてきた経緯がある。今回もその文脈で読む専門家は少なくないらしい。

ホルムズ海峡ドローン攻撃が「日常」になったら何が変わるか

バラカはペルシャ湾に面している。この湾の出口がホルムズ海峡で、世界の原油取引量の約2割がここを通過する。仮にバラカへの攻撃が散発的な事件にとどまらず、標的化が繰り返されるパターンになれば、湾岸の電力インフラと原油輸送ルートが同時に不安定化するシナリオが現実味を帯びてくる。

2019年にサウジアラビアのアラムコ施設がドローン攻撃を受けた際、原油価格は一時20%近く跳ね上がった。あの時と違うのは、今回が稼働中の原子炉を抱える施設の近郊だという点だ。放射性物質の拡散リスクが加われば、マーケットの反応は単純な原油価格の上昇では済まなくなる可能性がある。

米イラン核協議をめぐっては、イラン側が濃縮ウランの保有量削減を拒否しているとされ、米国側も「すべての選択肢がテーブルの上にある」という表現を使い始めている。外交が行き詰まるたびに湾岸の緊張が先に動く——このパターン、2019年前後にも見た光景だった。

この先どうなる

当面の焦点は3つ。①犯行主体が特定されるかどうか、②UAEが公式に被害を認める情報が出てくるかどうか、③米イラン間で次の外交接触の場が設定されるかどうか。特に③が動かなければ、湾岸での散発的な攻撃は続く可能性が高いと見られている。

バラカへの直接攻撃が確認されれば、UAEはNATO加盟国ではないものの米国との防衛協力協定を持っており、米軍の対応を引き出す可能性がある。逆にいえば、「直撃ではなく近郊への着弾」というラインを維持することで、全面衝突の引き金を引かずに圧力をかけ続けるという計算が働いているとすれば、話はより厄介だ。核施設が地政学の駆け引きのチップとして使われる時代に、私たちはすでに入っているのかもしれない。