EU脱中国サプライチェーンが、企業の「努力目標」から「法的義務」へと格上げされようとしている。フィナンシャル・タイムズが報じた計画によれば、EUは中国製部品の調達を禁じ、非中国サプライヤーへの切り替えを法律で強制する方向で動いているらしい。これは産業界にとって、コスト試算どころの話じゃない規模の話になってくる。

ウクライナ侵攻が変えた「依存」の意味

EUがここまで踏み込む背景には、2022年の苦い経験がある。ロシア産天然ガスへの依存がウクライナ侵攻で一気に安全保障上のリスクに転化した。あのとき欧州が学んだのは、「平時の経済合理性」が「有事の急所」になるという事実だった。

今回、標的になっているのは半導体・電池・レアアース。いずれも現代の産業インフラを支える戦略物資で、対中依存度が軒並み高い分野だ。経済安全保障規制という言葉の意味が、エネルギーから物資調達全般へと拡張されているのが見て取れる。

「欧州連合は、北京への依存を減らす取り組みの一環として、企業に中国以外のサプライヤーから部品を調達するよう義務付ける計画を立てている」(フィナンシャル・タイムズ)

「計画を立てている」という表現に注目したい。まだ規制の詳細は固まっておらず、これから業界ロビーと規制当局の攻防が本格化する段階だ。どの品目が対象か、猶予期間は何年か――そのあたりの抜け穴を巡る議論が水面下で始まっているとみていい。

自動車・医療・通信、3つの産業が直撃を受ける

影響が最も大きいのが自動車産業だ。EV化で電池や電子部品の調達量が激増しており、中国サプライヤーへの依存度は欧州メーカーも例外じゃない。コスト競争力を支えてきた中国製部品が調達不可になれば、製造原価の上昇は避けられない。

医療機器も同様で、パンデミック時代にサージカルマスクや医療器具の調達で痛い目を見た記憶がまだ新しい。通信インフラはファーウェイ排除の延長線上にある話で、EU各国がすでに非中国部品調達義務化の流れを先取りしている分野でもある。

企業側の反発は確実だ。特に中小サプライヤーは代替調達先を見つける体力自体が乏しく、規制が形骸化するリスクもある。一方で、EU域内や友好国(インド・東南アジア・北米)のサプライヤーにとっては、需要が一気に転がり込んでくる可能性もある。

この先どうなる

当面の焦点は、規制の対象品目と移行期間の長さだ。半導体やレアアースから先行して義務化し、自動車部品などは段階的に対象を広げるといった「ソフトランディング型」の設計になるかどうかで、産業界の受けるダメージは大きく変わってくる。

中国側の反応も読まなければならない。貿易報復や希少資源の輸出制限といったカードを北京が切ってきた場合、EUの規制は「義務化」どころか「調達不可」という現実にぶつかる。非中国部品調達義務化が絵に描いた餅で終わるか、本当にサプライチェーンの地図を塗り替えるか――それが試される局面は思ったより早く来るかもしれない。